小話④
イリス、ティセ編
「リヒトさん、こんにちは」
「お体は大丈夫ですか? リヒトさん」
「……イリスにティセか」
軽く扉がノックされて、ハイエルフの姉妹がひょこっと入ってくる。
特にいつもと変わった様子はなく、フェイリスのように過剰な心配をしているわけでもない。
リヒトからしたら、こちらの方が少しだけありがたかった。
「今日は私たちがリヒトさんの看病をすることになりました。早く治るといいですね……」
「リヒトさんにお土産。イリスたちの領域で収穫した果物」
「あ、ありがとう」
イリスから手渡されたのは、見たこともないほどカラフルな果物。
味の想像が全くと言っていいほどできない。
パッと見ると毒を持っていそうな見た目だ。
「ううん。こちらこそありがとう。リヒトさんのおかげで、今日は仕事をやらなくてすむ」
「そうか……」
「イリスちゃん。休めるのは嬉しいけど、リヒトさんの前でそんなことを言っちゃダメよ。リヒトさんも苦しんでるんだから」
「ごめんなさい、お姉さま」
めっ――と、ティセはイリスを叱る。
どちらかと言うと、仕事に対する意識の低さの方を叱るべきだと思えたが、ティセの感覚も少しズレているらしい。
休めることに関しては、ティセもプラスに捉えていた。
「あ、休むと言ってもちゃんと看病はしますので、困ったらいつでも言ってくださいね」
「そうするよ」
「とりあえず何かしてほしいことはありますか? 私にできることであればいいのですが」
「それじゃあ……使い終わった氷を片付けてもらえたら」
はい――と、ティセはニッコリ笑って作業に取りかかる。
前日にロゼがほとんどの仕事をこなしたため、ティセ一人で何とかなるほどの仕事しか残っていない。
イリスは適当な椅子に座り、部屋の中をグルグルと見回している。
やはり休めると言っても、何もすることがないと暇なようだ。
しかも今はティセが作業している最中。
遊んでもらうこともできず、慣れないリヒトの部屋では昼寝することもできない。
「お姉さま。イリスは何すればいい?」
「うーん。まだ大丈夫よ、イリスちゃん」
「……むー」
ティセに軽く流されたイリスは、足をプラプラさせて不満そうな声を漏らす。
リヒトの看病をしていると言えど、ここまで相手にされないのは久しぶりだった。
ティセに対するモヤモヤとリヒトに対する嫉妬。
その二つがイリスの中でぶつかり合う。
「コホンコホン。お姉さま、イリスもちょっと病気になったかも」
イリスはわざとらしく咳をしながら、チラリとティセの表情を確認する。
多少強引だが、これなら嫌でもティセは目を向けるはずだ。
あらあら――と、実際困ったようなリアクションを見せていた。
「病気になっちゃったなら、イリスちゃんも苦いお薬飲まないといけなくなるわね」
「え?」
「もしかしたら、注射を打たないといけなくなるかも。きっと痛いんだろうなぁ」
「……やっぱり元気かも」
その言葉を聞くと、ティセはクスリと笑って作業に戻ったのだった。