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言い訳


「この手紙が来たのは最近のようじゃが、お主はまだ返事を返しておらんのじゃろ?」


「……そう」


 アリアは、手紙に記されている日付を確認しながら問いかける。

 本来ならわざわざ人間のことなどを追及したりしないが、リヒトと深く関わってる今は別だった。


 ましてや、リヒトの出身国であるレサーガ国の動きだ。

 確認しておいても損は無いだろう。


「ちなみに、どういう返事を返すつもりなのじゃ?」


「……報酬も良いし、休みも多いし、引き受けないなんて有り得ない。今まで手紙をくれた人たちの中でも最高――だけどこんなこと聞いてどうするの……?」


「いやいや。もしお主が人間側につくなら、儂と戦うことになりそうってことだけじゃ」


「……え?」


 アリアを見ていた魔女の目の色が変わる。

 目の前にいる者が、未来の敵になるかもしれないのだ。

 先に自分の心境を語ってしまったため、今さらしらばっくれることもできない。


 場合によっては、今から戦いになる可能性だってある。

 この段階でどれほどの戦力差があるのかは不明だが、直感的に自分が負けるということだけは理解できた。


「名乗るのが遅れたが――儂は魔王じゃ。別に今からお主を殺すつもりはない。次に会うのは戦場になるじゃろうな」


「ま、待って……! 魔王ってどういう――ううん、そんなことより敵になるって本当?」


「本当じゃ。何もおかしな話ではないじゃろ。それより、魔女の血は美味らしいからロゼは喜ぶかもしれぬな」


「…………」


 魔女の言葉が途切れる。

 自分がどうするべきなのか、寝起きの頭で必死に考えていた。


 少なくとも。

 このまま魔王の敵になるということだけは悪手と考えて間違いはない。


「――てない」


「?」


「私はまだ人間の話を引き受けてない」


 自分でも分かるほど苦しい言い訳。

 確かに人間の話を引き受けていないのは事実だ。


 しかし、先ほど自分でベラベラと――なおかつ敵の前で人間側につくと決意表明してしまった。


 もはや自分の意志の情けなさをアピールしているようなものである。


 こんな虫のいい話があるわけない。

 悪あがきと言っても過言ではないだろう。


「……それもそうじゃな。すまんすまん」


(……え?)


 予想外の反応。

 どういうわけか、アリアは納得するように頷いていた。


 困惑する自分を見て楽しんでいるのか。

 そんな考えも浮かんだが、当の本人は自分の反応など全く見ていない。


「変に威嚇して悪かったのじゃ。今度会う時は敵でないと良いな」


「ま、まだ話が――」


 満足そうに帰ろうとするアリアの背中を。

 魔女は逃がすまいと慌てて引き止める。


 この数分間で、立場は完全に逆転していた。


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