内緒話
「おはようございます、魔王様」
「うむ。集まっておるようじゃな」
照りつける太陽。
ロゼが外の世界に出るのは久しぶりだ。
ヴァンパイアであるため、眩しい光に一瞬怯むものの、強い意志でしっかりと踏ん張っている。
「お姉さま、もうみんな準備できた?」
「大丈夫そうよ、イリスちゃん」
「……やけに二人とも準備がよいな」
フェンリルの状態を確認しながら、イリスはキビキビと出発の準備を完了させていた。
ここまで気合いが入っているのも珍しい。
いつもならティセの後ろに立っているイリスも、今日だけは前に立って引っ張っている。
「じゃあ、イリスとお姉さまとドロシーさんはフェンちゃんに乗る。ロゼと魔王様は足を用意しなくても大丈夫?」
「そうじゃな。ロゼもそれで良いじゃろう?」
「はい」
「あれ……ロゼさん。牙が――」
「あ、あまり見ないでください……ドロシーさん」
ロゼは恥ずかしそうに牙を隠す。
乙女として、あまり剥き出しの牙は見られたくないようだ。
覚悟は決めていたとしても、やはり羞恥心は残っているらしい。
ドロシーも様子を察して、それ以上は何も言うことはなかった。
「ドロシーも落ち着いたみたいじゃな。少し心配しておったが、立ち直ってくれて良かったのじゃ」
「……昨日はすみません、魔王様。こういうことは初めてだったので……」
ドロシーがこれまで生きてきた中で。
仲間を失うことはあっても、ここまでショックを受けた経験はない。
だからこそ。
今回のように、大切な仲間が失われた時に気を弱くしてしまう。
自分自身ですら、抑えきれない感情に困惑したほどだ。
「ロゼもドロシーも大泣きで大変じゃったからのぉ」
「ま、魔王様……!?」
「どうして言っちゃうんですか!」
ロゼとドロシーは慌ててアリアの口を塞ごうとするが――時すでに遅し。
イリスとティセの耳に、しっかりとその情報は届いている。
「お姉さま、二人はなんで恥ずかしがってるの?」
「色々な理由があるのよ、イリスちゃん」
「ふーん」
どうしてロゼとドロシーは顔を赤くしているのか。
子どもであるイリスの好奇心が反応したが、状況が状況であるため追求するのは後になった。
「安心せい、リヒトには内緒にしておいてやるのじゃ」
「……! ということは――」
「そういうことじゃな。さっさと助けてやるぞ」
アリアのこの一言に。
二人は大きな返事で答えることになる。
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