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ヴァンパイアの目覚め


「……リヒトさん」


 朝。

 寝起きのロゼの第一声は、攫われてしまった仲間の名前であった。


 昨日その情報を聞いてから、ずっとリヒトのことを心配し続けている。


 散々泣きじゃくったため、その疲れが少し体に残っているのは否めない。

 アリアの話によると、リヒトの救出を決行するのは今日だ。


 この疲れが作戦に響くのでは本末転倒である。


「……うぅむ」


「あ、魔王様……」


 隣から聞こえる眠そうな声。

 その声の主は、自分が心から尊敬している魔王であった。


 なぜアリアが自分の隣で寝ているのか――寝起きの頭が、段々と昨日の記憶を思い出していく。


「――そうだった。魔王様は私のために……」


 それを思い出すまでに、ロゼが時間を必要とすることはない。

 むしろ、忘れられるはずがない。


 昨日――泣き疲れて眠るまでは、ずっとアリアの胸を借りていた。


 いつものアリアなら嫌がって離れようとしただろうが、昨日だけは何も言わずに受け入れてくれたのだ。


 眠そうな唸り声を出すアリアの様子を見ると、ロゼが眠った後もしばらくは起きてくれていたらしい。


「……うぅん。ロゼ、起きたのか……?」


「はい。魔王様」


 目を開かず、芋虫のようにうねうねと体を動かすアリア。

 リヒトを助けに行く前とは思えないほどの余裕である。


 それとも。

 自分のせいで寝不足になっているのでは、とロゼの心の中に少し罪悪感が生まれた。


「もう泣き止んだか?」


「は、はい……ご迷惑をおかけしました」


「よいよい。気持ちは分からんでもないからな。溜め込まれても困るし、スッキリしたならそれでよいのじゃ」


 アリアは大きくあくびをしながら、ようやくその赤い目を開く。

 少し目が合っただけでも、引き込まれてしまいそうな瞳だ。


 意識しないうちに見つめていたら、プイっと目線を逸らされてしまった。


「さて。今日ばっかりは集まりに遅刻することはできんぞ。みんな本気じゃからな」


「えっと……フェイリスもですか?」


「いや。リヒトが抜けてしまったから、フェイリスはラエルと一緒に留守番じゃ。もんのすっごいほど抗議されたがな」


 リヒトと共に行動することで、初めて真価を発揮するフェイリス。

 リヒトがいないこの状況では、下手に動かない方が得策である。


 しかし、それはあくまで理屈での話だ。


 この魔王軍の中で、リヒトが攫われたことに一番ショックを受けているのは間違いなくフェイリスだろう。


 リヒトを奪還する作戦にも、率先して名乗りを上げていた。


「あそこまで感情的になられたのは初めてじゃったなぁ。儂が殺されてしまうかと思ったぞ」


「そこまでですか……」


「まあ、条件付きで譲歩してもらったから結局お留守番じゃ――さて」


 そろそろじゃな――とアリアが立ち上がる。

 この会話で完全に目を覚ましたらしい。


 僅かにだが、周りの空気が冷たくなったような気がした。

 それほどまでに、今回はアリアも本気だということだ。


 ゴクリとロゼは唾を飲み込み、ペチンと両頬を叩いて気合を入れる。


 隠していた爪と牙。

 覚悟を決めたヴァンパイアは、大きく深呼吸をして立ち上がった。


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