番外編 バレンタイン
本編が大変なことになってるけど、せっかくのバレンタインだから番外編を書こうと思ったら、作者の経験不足により何がしたいのかよく分からなくなった話。
「ばれんたいん……ですか?」
「初めて聞いたなの」
朝から首を傾げるロゼとフェイリス。
耳にしたことがない単語であり、それが食べ物なのか人の名前なのかすら分からない。
ドロシーがわざわざ教えてくれるということは、何か自分たちに関係することなのだろうが、唐突すぎるためその意味を読み取ることができなかった。
なぜか渡された箱に困惑するだけである。
「バレンタインっていうのは、日頃お世話になっている人にチョコレートをプレゼントするっていうイベントだね。ということで、フェイリスさんとロゼさんもどうぞ」
「あ、ありがとうございます……」
「ありがとうなの」
かなりざっくりとした説明だが、とりあえずフェイリスとロゼはありがとうと伝える。
ドロシーの言うバレンタインは、今まで生きてきた中で聞いたことがないイベントだ。
恐らく人間界特有のものなのだろう。
「あ、あのっ、リヒトさんもばれんたいんを知っているのでしょうか……!」
「……? 多分知ってると思うけど――」
「リヒトさんからチョコレート貰えてないなの……お世話になってるって思われてないなの……」
「――あぁ、それはちょっと違うんだー」
ネガティブな受け取り方をしてしまった二人に、ドロシーは追加で説明をしておく。
このままでは、リヒトが恩知らずな人間であるという印象を与えかねない。
それどころか、この二人だと自分のせいだと背負い込んでしまいそうだ。
「基本的に、女の子が男の子にチョコレートをあげるイベントなんだよ。だから、リヒトからは渡しづらいんじゃないかなぁ」
「ほ、本当ですか……」
「よかったなの……」
ホッと胸を撫で下ろす二人。
自分たちが嫌われているわけではないと分かって安心したようだ。
そしてその次に。
自分たちがしなくてはならないことに気が付いた。
「まあボクたちは女の子同士だけどね」
「――あ! もしかしてですけど、リヒトさんにチョコレートをあげることってできたりしますか……?」
「うん。リヒトも喜ぶだろうし」
「やるしかないなの」
チャンスと言わんばかりに。
フェイリスとロゼはニヤリと笑う。
チョコレートに関しては全く知識がないが、それなりのものは作れるはずだ。
このイベントにあやからない理由がない。
「でもロゼ、チョコレートはどうやって作るなの?」
「そ、それは……」
「それならエルフのリーファさんに頼めば大丈夫だったよ。溶かして固めるだけだけど」
ドロシーのアドバイスを頼りに。
二人は派遣されたエルフの元へ向かうことになる。
*******
「リヒトさーん」
「リヒトさん、起きてますかー!」
ドンドンと叩かれる扉。
本来なら数時間前に完成する予定であったが、慣れない作業が続き、チョコレートが完成するのは日付が変わるギリギリになってしまった。
扉には鍵がかかっているため、音を出すしかリヒトを呼ぶ方法がない。
バレンタインが終わるまで残り数分。
床に就いていてもおかしくない時間帯であるが、目を覚ますことを願って叩き続けた。
「リヒトさーん、起きてなの」
『……なんだー?』
部屋の中から、眠そうな声で返事が返ってくる。
眠る直前だったというよりは、眠った後に無理やり起こしたような様子だ。
二人の心の中に少しの罪悪感が生まれたが、特別な日ということで目を瞑るしかない。
「リヒトさん! いつもありがとうございます!」
「受け取って欲しいなの」
「……ん?」
リヒトが内側から扉を開けた瞬間に、フェイリスとロゼは大きなチョコレートの箱を見せる。
あまりに突然であったのと、頭が働いていないことにより、リヒトも困惑の表情を隠せていなかった。
「これって……」
「チョコレートなの」
「あぁ、バレンタインか。そういえばドロシーも配ってたな――にしてもデカすぎないか……?」
リヒトの目の前にあったのは、ロゼの身長よりも大きい箱である。
この中にチョコレートが入っているとしたら、一体どれほどの大きさなのか。
とても一人で食べ切れる量ではないだろう。
「ちょっと作りすぎちゃったなの」
「十人前どころじゃないぞ」
「大きすぎたので固めるのが大変でしたね」
「だからこんな遅い時間になったのか……」
結局。
リヒトだけでは到底食べ切れる量ではなかったため、次の日魔王軍全員に数キロずつプレゼントされることになった。




