番外編 新旧
※シズク(リヒトの元仲間)
「ふぅ……今日はこのくらいかな」
光が一つもない真っ暗な部屋。
ヴァンパイアであるロゼは、このような部屋でも問題なく仕事を行うことができる。
別に明かりをつけることもできるのだが、あえてそうしない理由があった。
一つは、明かりをつけることによって、誤差程度であるがコウモリたちのコントロールが鈍くなるため。
そしてもう一つは、対象に精神的なダメージを与えるため。
「致死量ギリギリっていうのも難しいなぁ。でもまあリヒトさんの指示だし」
ロゼは眷属であるコウモリを使って、対象の血をギリギリ生命活動が維持できる程度にまで減らす。
対象が男であるならまだコントロールは簡単であったが、残念ながら女であるため繊細な調整が求められた。
「……あれ? まさか死んでませんよね? ミスはしてないはずですから――」
「……して…………殺して」
「ああ、良かった。間違えて死んじゃったかと思いました。シズクさん……でしたっけ」
ホッとロゼは肩をなでおろす。
シズクがこの部屋に監禁されてから数ヶ月。
日に日に元気がなくなっているため、生死の確認が難しくなっていた。
最初は助けを求めるような叫びを一日中あげていたが、一週間を過ぎたあたりからもうそのようなことはしなくなっている。
心が折れ、無駄なことだと悟ったのか。
リヒトに対して侮辱するような言葉を並べていた頃が懐かしい。
「……いつまでこんなことするの。こんなことをして楽しいの……?」
「私には分かりません。これもリヒトさんの指示ですから、いつ終わるかはリヒトさんに聞いてください――って無理だと思いますけど」
シズクに対しての返答は、意図せず望みを断ち切るようなものになってしまう。
リヒトがこの部屋に訪れることは少ない。
もし訪れるとしたら、それは間違えてシズクが死んでしまった時だ。
「アタシらがあんたに何したって言うのよ……」
「私は別に貴女たちを恨んでいませんけど――って、あまり喋ったら苦しくなるだけですよ」
やけに喋る日だなぁ――とロゼは呆れながら、眷属をシズクの腕から取り外す。
これで今週の分の仕事は終了だ。
シズクの体力を舌が噛み切れない程度に調整し、拘束具のメンテナンスも完了している。
「それじゃあ私は失礼してもいいですか?」
「……待って」
リヒトを――とシズクが呟く。
「リヒトと話をさせて……お願い。一回だけでいいから……」
「……それではまた来週」
バタンと重い扉が閉じられ、しっかりと鍵をかける音がシズクの耳に入る。
扉を開ける際の微かな光も束の間。
すぐさま元の暗闇にシズクは包まれた。
もしかしたらロゼがリヒトに伝えてくれるかもしれない。
そんな淡い希望を抱きながら、シズクはまた一週間を過ごすことになる。
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