ドラゴンスレイヤー
「いましたね。寝てますよ、魔王様」
「サクサクじゃな」
ドロシーは、暗闇の中から正確にドラゴンの位置を特定する。
それによって、この穴の中はおびただしいほどの死霊で溢れかえっているが、ドラゴンがそれに気付いて起きるような気配はない。
食物連鎖の頂点に立つ者としての余裕なのか。
堂々たる寝姿だ。
「魔王様、どうしますか?」
「別にこのまま永遠の眠りにつかせてやっても構わんのじゃが、それではつまらんじゃろう?」
「……はい」
「ハハ、正直じゃな」
リヒトたちのために急がなくてはならない――そのような話をしたばかりであるが、ドロシーは自分の気持ちを包み隠さず伝える。
せっかくアリアと共に行動することができたのに、何も見ることが出来ずに終わってしまえば、モヤモヤとした気持ちがずっと残り続けるだろう。
アリアの強さの秘密を知りたい一心で、ついつい正直な心が出てしまった。
「お主のお陰で早めに到着したしの。少しくらいは願いを叶えてやろう」
「ほ、本当ですか!」
「うむ。儂が戦っているところを見たい――とお主が言っておったのは知っておるからな」
露骨に嬉しそうな表情を浮かべるドロシー。
既に頭の中は、リヒトたちのことではなく、アリアのことでいっぱいである。
少しばかりの気恥しさはあるものの、アリアの戦いを目の前で見られると考えれば安いものだ。
「あ、死霊は全部回収したので、思う存分戦ってください!」
「……手際良すぎじゃろ」
アリアが命令するまでもなく整えられたバトルフィールド。
その行動の早さに感心しながら、アリアはどこからか竜人の武器を取り出した。
「本当はロゼに見せてやる約束だったのじゃが――まあ良いじゃろう」
「へぇー、魔王様って武器を使うんですね」
「いやいや、普段は使わんのじゃがな。たまーに遊び程度で使いたくなるのじゃ。せっかく竜人が作ってくれたものじゃし」
ドロシーの言葉を訂正しながら、アリアはドラゴンの元へと近寄って行く。
本来ドラゴンより下位種族の竜人。
その竜人の武器を使ってドラゴンを倒すゲームと考えることで、戦いの中に面白さを見出していた。
もしこの場にイリスやティセがいたとしたら、アリアと同じようなことを考えていただろう。
「よーし。早く起きるのじゃ――って、うおっ」
躊躇うことなく、眠っているドラゴンの尻尾に、アリアはグサリと武器を突き刺す。
流石のドラゴン――鋼竜と言えども、極限まで鍛えられた武器を弾けるほどの鱗ではない。
張り裂けんばかりの鳴き声を響かせながら、威嚇する形での目覚めとなった。
「ドロシー、耳は大丈夫か?」
「は、はい。魔王様」
ドロシーからしっかりと返ってきた返事。
人間の鼓膜はやはり脆いため、重要な器官にダメージが入ってしまったかもしれないと危惧していたが、どうやら杞憂に終わったようだ。
リヒトと違って勘が良いため、咄嗟に耳を塞いでいたらしい。
「自分の身は守れるな?」
「――勿論です!」
ドロシーが人間界で生きていた時代。
ドラゴンスレイヤーと呼ばれる存在を一度だけ見たことがある。
決して忘れることはない。
その強さは桁外れであり、何百年と経った今でも覚えているほどだ。
(すごい……)
しかし。
その存在を今、目の前の魔王が上書きするかのように軽々と超えることになった。
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