切れ味
「洞窟の中に行ったコウモリたちが、全滅してしまいまして……」
その事実は、アリアの表情をピクリと動かせる。
この反応がどういう意味なのか、それは本人にしか分からない。
ただ、残念がっているという様子ではなかった。
コウモリたちを全滅させた存在に、興味を持っているのだろう。
練習相手と考えると、願ってもいないレベルの相手だ。
「ロゼ、そのコウモリたちが全滅したというのは同時の出来事か?」
「は、はい。ほぼ同時の出来事でした」
「よっし! 喜ぶのじゃロゼ。なかなか大物が釣れたようじゃぞ」
アリアはグッと拳を握りしめる。
ロゼの体の一部を使用したコウモリは、並の魔物にも引けを取らないほど強力な力を持っていた。
そのコウモリたちが同時に殺されたとなると、魔獣の強さが少しづつ見えてくる。
「決まりですね――えい」
プチッと髪の毛を数本抜き取るロゼ。
それを空にばら撒くと、一本一本が音を立ててコウモリの姿に変身する。
そして、正確な洞窟の大きさを伝えるために飛び立って行った。
コウモリの能力は使役する数に比例して変化し、数匹単位であれば先程と能力はほとんど変わらない。
逆に数百匹単位で使役するとなると、野生のコウモリレベルまで落ちてしまう。
「しかし、お主もなかなか堅実じゃな」
「いえいえ、私にできることはこれくらいですから。それに、コウモリたちのおかげで洞窟の道は分かりました。これで迷うことはないと思います」
「おお、頼もしいのぉ」
アリアがゆっくりとしている間に、ロゼは全ての準備を終わらせる。
もしここにいるのがアリアだけであったら、安直に乗り込んで迷子になっていただろう。
サポート係としては最大限の働きだ。
イリスやティセとは、比べ物にならないほど気が利く存在である。
「後はこの武器がどこまで使えるかじゃな。場合によっては、儂の武器コレクションの中でもトップに躍り出るかもしれん」
「そ、それほどなのですか……」
「うむ。最初に手にした段階で、何となく分かってくるからな。もしトップになったら、コレクションの中から一つをロゼに譲ってやろう」
「ほ、本当ですか!」
アリアの気まぐれ。
この無駄に太っ腹な性格が、これまでに何回もトラブルを招いてきた。
中には、フェイリスに注意されるまで至ったケースもある。
戦闘に関して以外は、反省というものをほとんどしないため、これからも同じ過ちを犯し続けるはずだ。
「ありがとうございます! 魔王様!」
「良い良い。まあ、トップになったらの話――じゃがな!」
ロゼの感謝の言葉を受け止め、アリアは満足そうに武器を振るう。
その対象となったのは、近くに立っていた一本の木だ。
一切引っかかる様子もなく、そもそも手応えすらアリアの手には伝わっていない。
「……あれ? 切れてない?」
「――いや、切れ味が良すぎるのじゃ」
トン――と木を押すように蹴ると、ゆっくりと重力に従って倒れた。
切断面を見ると、ため息が出るほど平坦である。
もしもこの木が魔物であったとしても、同じ切れ味を発揮するであろう。
「悪くない――じゃが、まだ何か隠されておるらしいのぉ」
「す、すごいです!」
「これから長くなるぞ、ロゼ」
「は、はい!」
その武器に大きな期待を乗せながら、二人は肝心の洞窟へ向かうことになった。
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