想定外?
「外じゃな」
「外ですね、魔王様!」
アリアとロゼの全身を、少し冷たい風が包む。
何にも囲われていないこの大地では、アリアの能力を使うことが不可能だ。
しかしそれでも。
魔物たちとアリアの戦力の差は、平等になることはない。
実際に、アリアとロゼが入口から出てきた途端、目の前の魔物たちは逃げ出すことになった。
逃げ出した魔物たちは、二度とこの辺りに近付くことはないだろう。
わざわざ追いかけるようなことは、無駄だと分かっているため、どちらもしようとしない。
今二人が探しているのは、全く動揺していないような、ある程度の強さを持った魔物である。
「どうでしょう魔王様、丁度いい魔物はいますか?」
「……うーん。ほとんど逃げてしまったぞ。この様子じゃと、試し斬りにすらならんじゃろうな」
「困りましたね――そうだ! 夜行性ですから動きが鈍いと思いますけど、魔獣の巣でもつついてみましょうか!」
相手が見つからない状況でロゼが提案したのは、無理やり対戦相手を作ろうとするものだった。
そう考えてみると、強い魔物たちは現在眠っている可能性が高い。
ベストコンディションではないにしても、試し斬り程度の相手にはなるはずだ。
この場にリヒトがいたなら、嫌そうな顔をして止めていたであろう。
しかし、ここにはそのストッパーがいなかった。
それしかない――と、アリアも納得している。
「良い考えじゃ、ロゼ。でかしたぞ」
「えへへ」
ロゼの案を採用することになったアリアは、手頃な魔獣が住処にしていそうな巣を探す。
幸いなことに洞窟は多数存在しているため、数も質も期待はできそうだ。
既にロゼは、コウモリたちを放って散策を開始していた。
「あ、いました! あそこの洞窟にいますよ、魔王様!」
少しの時間が経つと、ロゼは一つの洞窟から反応を確認する。
ドロシーほど広範囲で高性能な散策ではないが、それでも十分すぎるほどの能力だ。
ロゼを信用して全てを任せているアリアは、今回も同じように安全な後ろを歩く。
「洞窟の中だとしても、魔王様の《空間掌握》は使えないんですよね? 必要ないとは思いますが、敵地なので一応……」
「そうじゃな。完全に入口を塞ぐなら使えんこともないのじゃが、まあそこまでしなくても良いじゃろ」
「で、ですよね」
「……? どうしたのじゃ? なんで不安そうにしておる。よく分からん質問じゃったし」
アリアが気付いた違和感。
わざわざ、ロゼがこのような質問をしてくる意図が見えてこない。
いつものロゼと比較しても、多少の焦りは感じられた。
「実は――」
アリアに伝えた方が良いのか――一瞬だけ躊躇った表情を見せたが、結局ありのまま起こったことを報告する。
「洞窟の中に行ったコウモリたちが、全滅してしまいまして……」
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