熱しやすく
「ラエルさん? どうしてここに――あっ、そういうこと」
指定された場所にいたのは、少し暗い表情をしているラエルであった。
一度会った時とは違い、明るさはほとんど失われている。
しばらく見ていない間に何があったのか。
どこか疲れているような表情だ。
「……お久しぶりなのです」
「お久しぶりです。えっと、どうかなされたのですか……?」
「別に大丈夫なのです」
覇気のない返事が、機械と同じようにして返ってきた。
どこからどう見ても、大丈夫とは思えない。
凄まじいトラウマを植え付けられたのか、それほどまでに心の闇が感じられる。
「ラエルさんもエルフの国に行くの?」
「そういう風に伝えられたのです。これに乗ってください」
そういってラエルは、首にかけたロザリオを地面に置く。
すると――みるみると巨大化していき、一つの乗り物と呼べるまでになった。
どういう仕組みなのかは分からないが、かなり汎用性の高いアイテムだ。
「落ちないように気をつけてほしいのです。そこまで高く飛ばないので、大丈夫だとは思いますが」
「すごい、お姉さま! イリス初めて」
「そうね、イリスちゃん。落ちないようにするのよ?」
「……」
予想外の変化をしたロザリオに、反応良くはしゃぐイリスと、それを見て嬉しそうにしているティセ。
肝心のラエルは、その様子をただ静かに見つめている。
今までのラエルであれば、褒められたことによって機嫌良くなりそうなものだが、やはりそのようなことはなかった。
「ラエルさん、このロザリオって他にも何かできるの?」
「……」
「ラエルさん?」
「あっ……すみません。大抵のことはできると思うのです。試したことはないので、どうなるかは分からないのですが」
へぇー――と感心したような顔のイリス。
このロザリオのように珍しいものは、イリスの好奇心の的になる運命だ。
熱しやすく冷めやすい。
興味があるなら熱中することができるが、ある程度知ってしまうとすぐに飽きてしまう。
ロザリオの情報を聞いて、不思議そうに確かめていた。
「場所は指示していただけると嬉しいのです――ところで、私たちは何をしに行くのでしょうか?」
「あれ? ラエルさんが知ってるんじゃないの?」
「申し訳ないのです。残念ながら、それについては聞かされていません」
「そんな大切なことを言い忘れるはずはないから、自由にしていいってことなのかしら。もしかして、休暇を貰えたってことなのかも」
休暇という単語に、イリスの尖った耳がピクリと動く。
何かに気を配る必要もなく、自由行動が許されているのだ。
気分が高まり、いつの間にかロザリオに跨っていた。
「お姉さま、ラエルさん、行こ」
「もう……ラエルさん、お願いします」
やれやれ――と呆れるティセの言葉によって、三人を乗せたロザリオは動き出すことになった。
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