勘違い
「リヒトさん。えっと……あそこに竜人さんがいるので、合流しておきませんか?」
「え? よく分かったな、ロゼ」
ロゼは、リヒトの耳元で囁きながら草むらを指す。
別にラエルに聞こえても、竜人に聞こえても良い内容であったが、真っ先にリヒトへ伝えておきたかった。
「こちらから声をかけた方が良いのでしょうか……? どうしましょう、リヒトさん」
「うーん……竜人が隠れているのは、何か理由があるかもしれないし――」
「リヒトさん! 大変なのです! あそこの草むらに誰かいるのです!」
リヒトが様々なことを考えていると。
ラエルがガッシリとリヒトの肩を掴み、グラグラと揺らしながらロゼと同じ草むらを指さした。
森に響くような大声であるため、隠れている竜人には間違いなく聞こえているだろう。
「早く姿を現すのです!」
ラエルがそう叫ぶと、抵抗することなく竜人は草むらから姿を見せる。
その手には、国宝と言われても疑わないほどの武器が持たれており、何も知らないラエルは敵として認識することになった。
「リヒトさん! 気を付けてくださいね! 話し合いを心がけてみますが、もしかしたら争いになるかもしれないのです!」
「……お久しぶりです、リヒトさん」
「久しぶりです。お母さんは元気ですか?」
「……へ?」
ラエルは首をブンブンと振りながら、竜人とリヒトを交互に見る。
まさかの展開に、頭がまだ追いついていないようだ。
とても敵という雰囲気ではない。
ならなぜ竜人は武器を持っているのか。
どうしてリヒトとロゼは、それに対して何も言わないのか。
何も知らないラエルは、この状況を読み取れずに口を開けっ放しである。
「母は今までが嘘みたいに元気になりました。リヒトさんとロゼさんのおかげです」
「それなら良かった。なぁ、ロゼ?」
「はい!」
「……」
ラエルは何も言うことなく、そのやり取りを眺めていた。
ロゼまで話に加わってしまったということは、この場で浮いでいるのは自分だけなのだ。
ここで騒ぎ立てることができるほど、常識がないというわけではない。
そして、居心地の悪さを感じさせないように、ロゼがすぐ隣にまで近付いてくれたのが、少しだけ嬉しかった。
「ラエルさん。この人たちは敵ではないので安心してください」
「そ、そうなのですか……申し訳ないことを言ってしまったのです……」
ヒソヒソと、ロゼはラエルの耳元で真実を伝える。
ラエルは、勘違いをすると止まらずに突き進んでいくタイプであるため、早めに対処しなくてはならない。
そう考えると、ロゼの判断は最適解とも言えた。
「リヒトさん。ここでは何ですので、ぜひ里に来てください。この武器も、そこでゆっくり見てもらいたいので」
「あっ――できてる! ぜひ行きましょう!」
完成した武器を確認したリヒトは、上機嫌にラエルとロゼの方向へ振り向いた。
ブクマ、評価、感想よろしくお願いします!