処刑宣告
「許せ、リヒトよ」
「……はい？」
それは、突然訪れた。
Sランク冒険者パーティーの一人として活動しているリヒトの前に現れたのは、どこかで見たことがあるような顔をした老人である。
小綺麗な書類がその手に持たれており、気が付くと十人を超える兵士に取り囲まれていた。
「どういうことですか……？」
リヒトは必死に頭の中を整理するが、こんな扱いを受ける理由が見当たらない。
訳が分からない状況だが、もう逃げられないということだけは直感的に理解させられる。
近くに人はいないため、助けを求めることすら出来なかった。
ただ、老人の返事を待つだけだ。
「この書類を見てもらえれば分かるが、国からの処刑命令が出てしまったんだ。悪く思わないでくれよ」
「処刑命令!? 俺が何をしたっていうんですか!? 税金だってしっかり納めてるし、冒険者としての活躍も――」
「――君のスキルが問題なんだよ」
老人から出てきたまさかの言葉に、リヒトは驚きを隠せない。
国からの処刑命令など、かなりの大罪を犯さないと下されないものだ。
全く身に覚えがない刑罰に、リヒトは分かりやすく動揺した。
そして、必死で抵抗するリヒトに告げられたのは、たった一言だけである。
それは、到底納得できるようなものではない。
「スキルって……《死者蘇生》のことですよね？ 一体何の問題が！」
「君のスキルは危険すぎるんだよ。確かにそのスキルで助けられた人もいるだろうが、魔物さえ蘇生させられるその力は、悪用されたら面倒なんだ。それに、噂によれば失敗してしまうとゾンビを生み出すことになるんだろう？」
「そんな――理不尽過ぎる！ 悪用なんてするわけないだろ！ しかも、ゾンビを生み出すなんて嘘だ！」
老人が追加で説明したとしても、やはりリヒトが納得することはなかった。
魔物さえ蘇生させることが可能である――というのは本当だ。
《死者蘇生》は、人間だけでなく様々な種族に適応することができる。
しかし、悪用というのは心外だった。
ゾンビになってしまうというのも、真っ赤な嘘である。
そもそも、リヒトは《死者蘇生》を失敗したことがない。
「そうだ！ パーティーのみんなと話し合わせてくれ！」
「それじゃあ話し合うといい」
「え？」
老人はリヒトの言葉を聞いて、一歩だけ右にズレる。
そこにいたのは、同じSランク冒険者パーティーの仲間であるアレンであった。
何故ここにいるのか――そんなことを考えている間に、アレンは申し訳なさそうに口を開く。
「リヒト、ごめんな。国からの命令には逆らえない。俺たちのためと思って、我慢してほしいんだ」
「何を言ってるんだ……？ 俺がパーティーを抜けたら――」
「確かに最初はお前の世話になったよ。でもさ、今の俺たちはクエストで死ぬなんてドジは踏まない。つまり、お前のスキルは意味が無い」
冷たく見離すようなその言葉。
パーティーにおけるリヒトの立ち位置を、極限まで分かりやすく説明したセリフに、すぐさま反論することはできない。
リヒトが次の言葉を考えていると、一人の兵士に容易く取り押さえられた。
「そういうことだ。未練なく処刑されてくれ。今まで国に貢献してくれてご苦労だった」
リヒトの返事を待たず。
目隠しと手錠によって、もう動けないように拘束される。
リヒトが最後に見たのは、老人から大量の報酬を受け取るアレンの姿だった。
20時頃にもう一話更新します
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