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伝説の老兵は異世界で少女と暮らす  作者: あるみす
一章  ミランダ
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ソフィアの初めてお手伝い

  テトが部屋に篭って魔道具の制作に打ち込んでから約二週間と少し。ソフィアはホールの隅の酒樽に座ってじっと周りを観察していた。

  あまりに動かないので周りから見たら、元々のソフィアの愛らしさも相まって高級なお人形の様だ。


(リサもシーナも凄く忙しそう…)


  今は夕時で仕事終わりの冒険者が次々と目まぐるしくやってくる。

  元々リサとシーナに一人の従業員の女性を加えた三人でホールをまわしているため常にギリギリの状況である。

  そして、厨房では昔から働いている50代のおじさんが一人で調理を続けている。


(ソフィもおてつだい出来ないかな…)


  ソフィアは座っていた酒樽からとっと飛び降りると丸いテーブルの並ぶ戦場へと足を踏み入れる。ソフィアは周りをキョロキョロと見回して何か無いか探す。


「ソフィ?どうしたの、あぶないよ?」

「シーナ!えっと、えっとソフィも何かお手伝いしたくて」

「んー、そうだなぁ。じゃあお客さんが食べ終わった食器を下げてくれる?」

「うん!わかった!」

「危ないから周りをよく見て気をつけてね?」


  シーナはソフィアに軽く微笑むと抱えていた料理を持ってテーブルへと運びに行った。



「食べ終わった食器はないですか?」

「どうしたんだ嬢ちゃん?」

「ソフィね、お手伝いするの!」


  おじさん連中の冒険者は自分の子供位の年の小さなお手伝いさんに一瞬困惑しつつも食べ終わっていた食器を重ねてソフィアに優しく手渡した。


「気をつけろよ?ゆっくりでいいからな、ゆっくりで」

「ありがとうおじさん!」


  ソフィアは両手で大皿の食器を抱えると腕をぷるぷると震わせながらゆっくりと慎重に食器を厨房の洗い場へと向かう。

  小さなお手伝いさんソフィアの事を見守る冒険者のおじさん達は怪我をしないかハラハラとしながら見守っている。なんやかんや怖い顔をしているが街の人よりもよっぽど人情に溢れているのだ。


「あと…少し…ん、出来た!!」


  ソフィアは大皿を洗い場へと運ぶと任務の完遂を笑顔で喜んだ。


「お、嬢ちゃん手伝ってくれてるのか?」

「うん!リサもシーナも忙しそうだったから!」

「偉いなぁ、よし休憩時間になったらご褒美をあげようか」

「ご褒美?」


  料理人アランは屈んで目線を合わせると微笑んで提案するとソフィアは翡翠色の目をキラキラと輝かせる。

 

「じゃあリサ達を手伝ってあげてくれるか?」

「わかった!」


  ソフィアはとてとてと駆けて次なる食器を求めてホールという名の戦場へと挑むのだった。




「終わったーー」


  リサが両腕を上げて伸びをして体を伸ばす。

  営業時間が過ぎたカナリヤの酒場にはリサやシーナが机に突っ伏していた。

 因みにもう一人の女性ナーシャは家族が待っているらしく、すぐに帰宅するのがいつもの流れだった。


「ソフィちゃんありがとうね、お手伝いほんと助かったよ〜」

「ううん、ソフィも楽しかったからいいの!」

「うううう、なんて可愛いのかしらこの子……疲れた心が癒されるわ」


  リサはソフィアを抱き寄せて頭を撫でると心が溶けるような感覚になった。

  すると、厨房からまだ残っていたアランが皿に盛り付けたショートケーキを三つ持ってやってきた。

 

「ほらソフィア、約束のご褒美だ」

「ほあああああ!」


  ソフィアはショートケーキに目を輝かせて感動の声を漏らす。さっそくフォークでつつき、一口運ぶと自然と緩まるほっぺたを抑えて、にへへと笑いを零す。


「良かったね〜ソフィちゃん、アランさん私達の分までありがとうございます」

「いいさ、ソフィアのついでだったからな。それにしても美味しそうに食べる子だな」


  アランは自分が作ったケーキでここまで笑顔になってくれるソフィアに思わず嬉しくなる。


「ソフィこんなにおいしいの初めて食べたよ!おじさん、ありがとう」

「お手伝いのお礼だからな。そんなに美味しいか?」

「うん!ケーキ初めて食べたから凄く美味しいの」

「え!?ソフィ初めて食べるの?」

「え?うん。お父さんもお母さんもソフィの事きらいだから誕生日にも食べたこと無かったよ」


  ソフィアの言葉に三人は戦慄というか怒りを覚えつつあった。

  つくづくソフィアの親はソフィアが怖かったのか実の娘を避け続け、挙句の果てには追い出してしまうのだから鬼畜以外の何者でもない。

  そして、三人の思考はほぼ重なった。


(((この子をなんとしても幸せにしてあげないと…!)))


「ソフィア、これから手伝ってくれたらご褒美にお菓子を作ってやろう」

「ほんとぅ!?」


  アランの言葉にソフィアはテーブルから身を乗り出す。

  リサは自身のケーキを半分切り分けてソフィアの皿に乗せてあげ、それを見たシーナも慌てて同じようにケーキを分ける。


「ソフィちゃん、私のケーキも半分あげるね」

「あっ、私も!」

「リサ、シーナどうしたの?」

「いいのよ、気にしないで食べなさい?私達はソフィちゃんの笑顔でお腹いっぱいだからね」

「ありがとう♪」


  約二つ分のケーキの乗った皿を見てソフィアは目を輝かせるが何か思いついたのか皿を持って立ち上がった。


「テトの所で食べてきてもいーい?」

「ふふふっ、いいわよ?後で食器は洗い場に置いておきなさいね?」

「わかった!」


  ソフィアははやる気持ちを抑えるように丁寧に持って階段を上がって行った。

  その後ろ姿を見て三人はほっとため息をついた。


「やっぱりテトさんが一番好きなのね」

「ソフィにとって特別なんでしょうね」

「というか二人共…あの子の親に腹が立ってきたんだけど」

「私もですよ!なんですか、子供の誕生日にすらケーキも出さないなんてっ!流石に酷すぎますよ」

「大体はテトさんが何とかすると思うけど私達は私達にできる形でソフィちゃんを甘やかしてあげよう」

「そうだな、それにあんなに賢い子がこんな仕打ちを受けてること自体がおかしいからな」

「私も妹が出来たみたいで嬉しいので甘やかすのには大賛成です!」


  三人は頷きあって『ソフィアに笑ってもらう作戦』を決行したのだった。




 私が魔法陣をとある物に施そうと試行錯誤していると扉が開いてソフィアが入ってくる。

 最近はこの子の面倒はリサやシーナが見てくれてるし、男のおっさん仲間として料理人のアランも気にかけてくれている。本当に私はこちらの世界に来てから迷惑しかかけてないな…いつか倍にして恩返しすると心に誓っておこう。


「テトー、おじさんがね?ケーキ作ってくれたの!」

「そうかそうか、美味しいか?」

「うん!一口あげるね?…はい、あーん」


 ソフィアは持っていたフォークで一口大にケーキを切り分けると食べさせてくれる。さすがはアラン、まろやかな生クリームにしっとりとしたスポンジとパティシエ並みの腕前だ。今度お礼もかねて酒を一杯驕るとでもしようか。


「ありがとうソフィア。すごくおいしいよ」


 ソフィアはいつもの様に笑うとお気に入りなのか、私の膝の上に座ってケーキを口に運ぶ。


「ねえテト…ソフィね?今までケーキ食べたこと無かったの。それをさっきみんなに言ったらね、すごい驚いてたの。ソフィやっぱり普通じゃないの?」

「ソフィア…」


 ソフィアの目にはさっきと打って変わって大きな宝石の様な涙が目に浮かんでいる。

 ソフィアがケーキを食べた事が無かった事には驚いたが、それほどにまでソフィアを避ける理由があったのだろうか…それに爆発事件があったのは二年前らしいし、それから急にこのような状況に陥ったとは考えにくい。

 ならば、もしこの事件が『きっかけに過ぎず』にソフィアの両親はまた違う理由があったのではないか?

 もし仮に何かあったとしても私には想像することが出来ない。できるのは目の前のソフィアの涙を止めてあげることぐらいだろう。


 私はソフィアにケーキの乗った皿を机に置かせると不安なんか吹き飛ぶように強く、強く抱きしめた。


「確かにソフィアはほかの人とは少し違うかもしれない。いや、ソフィアは『アリア』だから寧ろ特別な存在だな」

「て…とぉ?じゃあやっぱり…」

「でもね、ソフィア。人間は生きてる限り何かしらの違いが生まれるんだ。例えば、リサはしっかりしてておっとりとしてるけどシーナは元気で明るいだろう?」

「うん…リサもシーナも違う」

「だから普通じゃない事は気にすることじゃないんだよ。人間は他人と違うことを嫌うけど、それを一歩踏み出して外の世界に踏み出してみると違う景色が見えてくる物なんだ」

「けしき…今ソフィ、テト達と一緒に居る!」

「そう思えたのなら、ここがソフィアにとっての居場所だ。私はソフィアの両親が何を恐れていたのかはわからない。だけど少なくとも私たちはソフィアが普通と違うからって見捨てたりするような真似は絶対にしないと誓おう」


 ソフィアは体を半回転させて私と正面から向き合った。ソフィアは何とも困惑したようで声がなかなか言葉にならないみたいだ。


「そ、ソフィはお母さんとお父さんにいつも『目ざわり』とか『普通じゃない』って言われてきたの。ソフィは普通が何かわからないもん、お父さんたちが言ってることが理解できなかったの。」

「ソフィア…」


 普通自分の娘にそんな罵倒を口走るだろうか。ソフィアの両親については謎が深まるばかりだ。


「でももういいの。お母さんとお父さんの事は忘れる!今はここが、テト達がソフィの家族だもん!」

「ああそうだ。それに、私たちは今のソフィアの事が大好きなんだから、無理に変わる必要もないんだ」


 ソフィアの頭を軽く撫でてあげると力が抜けたように倒れこんできて、私にしっかりと体を密着させてまた泣いている様だったが、先ほどの不安の涙とは違って安心からくる安堵の涙の様だった。


「ううっ、てとぉ、てとぉ!」

「どうしたんだ?」

「ソフィ怖かった…テトもみんなも優しいけど、もしかしたらまた『捨てられちゃうんじゃ無いか』って」


「ソフィ、テトの事信じていいんだよねぇ?一緒に居ていいんだよね?」

「ああ、ずっと、ずっと一緒にいよう。私はソフィアの家族だからね」

「約束だよ?」

「ああ、約束だ」


 再び笑顔を取り戻したソフィアは小指を差し出して、テトもそれに自身の小指を絡めて『指切り』を行った。

 ソフィアの笑顔を見ていると、この子を二度と不安な気持ちにさせる訳にはいかないという使命感がふつふつと湧いてくるのだった。








「準備はどうだ?」

「あと少しで整います。これであのジジイに復讐できる…」

「手筈通りに準備を進めろ、われらが崩壊する前に一矢報いるぞ!」

「「「はい!!」」」


 町のどこかの地下でそのような会話が繰り広げられていることは当然テトには知りえない事実だった。



5話です!

今回はソフィアメインでのお話でした〜♪


ここまで読まれた方の大半が「ソフィアの親、クソすぎる」だと思います。実際ソフィアの両親のキャラ設定はかなりのクズさで作っています。今後登場するかも…?


ソフィアの笑顔が取り繕った笑顔だったなら僕としても少し寂しいです…なので今後のテトの課題はもっともっと、ソフィアを安心させて本来の笑顔を取り戻すことになりますね。頑張ってください、テトさん。


では、ここら辺で一旦お別れです!

モチベーションが下がりそうなのでどうか…どうか評価、ブックマークの方よろしくお願いしますm(_ _)m


では、6話にてお会いしましょう!

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