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伝説の老兵は異世界で少女と暮らす  作者: あるみす
一章  ミランダ
3/33

初めての買い物は血と涙の味

頑張りました。

「『アリア』とはなんだ?」


  ヨハネスは何やら神妙な面持ちで語りだした。


「まずこれは基本的なことなんじゃが、魔法とは基本的に発現方法に二種類存在するんじゃ。一つ目は自身の魔力を魔法に変換して発現する方法。そして、『周囲の魔力を変換して発現する』方法じゃ。後者は一般的には魔道具と呼ばれている」

「そして、人間は魔法を発現する時普通は自身の魔力を変換する事でしか扱えないんじゃよ。」

「普通はと言うと?」

「そうじゃ、『アリア』においてはそれが当てはまらない」

「『アリア』は言ってしまえば『周囲から魔力を無制限に供給される存在』、自身の体を魔道具の様に扱う事が出来ると言った方が分かりやいかの?」

「ソフィアがその『アリア』だと言いたいのか」

「そうじゃ」


  私は膝の上にいるソフィアに視線を向けるとソフィアもそれに気づいて私を見上げてくる。天はこの子にとてつもない才能を与えたのだろうが果たしてそれが幸せなのだろうか。

  私を見上げる無垢で大きな翡翠色ひすいいろの瞳を持つソフィアを見ているとどうもそうは思えない。


「そもそもアリアという名も一人目のアリアが軍隊を相手にたった一人で殲滅した姿が独唱しているように素晴らしかったからじゃし、もし嬢ちゃんの事が公になればよからぬ事を考える輩も現れるじゃろうな」

「そいつらからこの子を守るのが今の私の役目だ」


  そう答えるとヨハネスはシワの多い顔を破顔させた。


「なら守れるだけの力を教えんといかんのう。どれ、おまえさんは……ふむ、これはまた珍しい、『魔力操作』と『魔道具生成』に長けておるようじゃな。じゃが魔力保有量はそこまで多くないようじゃから魔道具作りを極める方が良さそうじゃな」

「ああ、それで構わない。私はそれなりに戦いには精通しているのでね」

「はっはっは、それは見れば分かるわい」


「一つ聞きたいんだが私は魔力というものが分からない。そもそもどんなものなんだ?」


  恐らくこの世界の人なら誰だって分かるのだろうが私のとんちんかんな質問にもヨハネスは快く答えてくれた。


「魔力というのは血のように生きている限り作り続けられる物じゃ、言わば第二の生命力と言った方がピンとくるかの?」


  自分自身の生命力なんて感じた事は無いが魔力もまた底を尽きたら死に絶えるのだろうか。


「正直まだあまり実感がわかないな」

「そうか…そうじゃの、なら実際に体験してもらう方が早いかの。ほれ、両手を出してみぃ」


  私は言われた通りに両手を差し出すとヨハネスも同じように手を出して私の上に重ね、小声で何かを呟いた。

  すると、私の身体が…いや、血管のような管が私の身体中に淡い光を発しながら浮かび上がった。


「テト!テトが光ってるよ!」

「あぁ…これは驚いた」

「これがおまえさんの魔力の流れじゃ。どれ、手に集中を向けてみ?」


  私は言われた通りに手に意識を集中させる。力を入れるのとは違う不思議な感覚だ。

  すると、掌の光がより強さを増して輝いた。


「おお!初めてにしては上手いもんじゃな。センスがいいんじゃな、お前さんは」


  しばらくすると光も収まって元の肌の色に落ち着いた。


「これが魔力じゃ。そしてお前さんが今から習得しようとしている魔道具の生成は周囲から魔力を集めるから格段に難易度は上がるんじゃがお前さんなら大丈夫じゃろうな」


  どこか上機嫌なヨハネスはそれから小一時間みっちりと魔法について説いてくれた上に魔道具生成の本を貸してくれた。



「ありがとうヨハネス。また頼むよ」

「わしこそ久々に楽しい時間を過ごせたわい、嬢ちゃんもね」

「あとこれはわしの見解なんじゃが嬢ちゃんが以前家を爆発させたのはおそらく魔力の供給過多による暴走じゃろう。コップから水が溢れ出たイメージじゃ」

「それはどうやれば防げるんだ?」

「簡単じゃよ、さっき教えた魔力操作で嬢ちゃんの中の魔力を外に逃がしてやればいいんじゃよ」

「そうか。魔力操作に磨きをかけるよう努力するよ」

「お前さんならすぐにできるじゃろうよ。ではそろそろ帰るわい」

「ああ、気を付けて」




 ヨハネスが帰ったあとすぐにリサとシーナの二人が夕飯休憩に入ったので四人で食事を頂いた。リサは自分たちと同じまかない料理なら朝・昼・夕の三食無料で付けてくれると言ってくれるくらい気概の大きい娘だ。

 まかないとは思えないほどおいしい料理を特にソフィアがよく食べた。育ち盛りなのもあるだろうが今まで碌な食事をしてこなくておなかが減っていたのだろう…手っ取り早く稼いで沢山美味しいものを食べさせてやろう。


「リサ、明日この子の必需品を買いに行きたいんだが何が必要か教えてくれないか?私は女の子の事情には疎いのでね」

「テト、明日お買い物?」

「ああ、そのつもりだ」

「やった~!」


 目に見えて嬉しそうなのは見てるこっちとしても嬉しいものだな。


「わかりました!じゃあ、明日リストアップしたメモを渡しますね」

「ありがとう、疲れてるのに悪いな」

「全然大丈夫ですよ~。あっ、そうそう」

「どうかしたか?」

「このお店もあるギルドより南側の居住区は基本的には冒険者の人がたくさん住んでるのでソフィアちゃんに対しても恐怖してる人はいないんですけど北側の居住区は一般人ばかりなので気を付けてくださいね」

「わかった、警戒しておこう」

「ハイハイ!私も一緒に行ったらだめですか?」


 シーナが元気よく右手を挙げて提案してくれる。土地勘もないし正直ありがたい話なのだが…このお店は大丈夫なのだろうか。


「うーん、お昼はそんなに人来ないし良いよ~、シーナ案内してあげて?」

「リサさんありがとー!」




 そんなこんなでシーナの同行も決まり、二人は夕食を食べ終えるとすぐに仕事へと戻っていった。

 ソフィアも眠そうに目をこすっていたので抱き上げて私も部屋に戻る。さっとシャワーを浴びて先ほどシーナが渡しに来た寝間着にソフィアを着替えさせる。


「よし、寝ていいぞ?」

「…てとぉ、一緒に寝てくれないの?」


 今まで一人で夜を過ごしてきたからか眠そうに目を擦りながら甘えた口調で聞いてくる。

 これには思わず私も頬の力が抜けてしまう。


「ああ、分かった。寝ようか」

「うん!」


 一緒に布団にもぐるとソフィアは安心したようで穏やかな寝息を立てている。この天使の様な子が二度と辛い思いをしない様に私の命尽きるまで守っていこうと心に再び刻みこんだ。


 そして私にとって異世界で初めての夜が更けていくのだった。





「いってきます!」

「いってらっしゃーい、シーナをよろしくお願いします」

「ああ、任せてくれ」

「私だってもう子供じゃないんですよ!?」


 リサと別れて私たちはギルドを超えて繁華街へと繰り出した。

 それからの買い物はソフィアの笑顔が終始絶えなかった。歳が割と近いシーナはとても面倒見がよく、そして買い物上手。これに尽きると思う。同じ商品でも安い店を知っているし、センスも良いのでソフィアも大喜びだった。そして何より幸運だったのは町の人がソフィアの事を『呪われた子』だと気づかなかったことだ。昨日までずっと『薄汚れた貧しい子』だったのに一日でまるで別人の様に綺麗になっていたら無理もない。


「ふう…ちょっと疲れたぁ」

「大丈夫か?昼も近いし少し休憩にしようか」

「うん!ソフィおなかすいた!」


 ソフィアが噴水広場にあるベンチ座ったまま動きそうにない位疲れている様だったので昼飯を提案するが、この大荷物だと店に行くのは難しそうだな。


「私が何か買ってこよう。悪いがシーナ、ここでソフィアと荷物を見ていてくれないか?」

「わかりました~、ソフィちゃん私と一緒に待ってようね♪」

「うん!」

「では、すぐ戻る」





 私は露店で櫛肉やら肉まんやらを買いめぐる。神が支度金として渡してくれた金額はおよそ10000Gでこの世界は何もかもが日本よりも物価が安いので今日の買い物の代金と私の装備用の金額を差し引いてもしばらくは食っていけるくらいのお釣りがあった。

 そして私は少し多めに買い込み二人のもとに戻ったのだが驚きの光景を目にすることとなった。




 テトが買い出しに行った直後、ソフィアとシーナは5、6人の若い男に囲まれて暴行を受けていた。しかし、いくら殴っても涙一つ流さないソフィアに男たちはイライラしていた。


「お前の様なクズがいっちょ前に洋服着てんじゃねえよこの悪魔が!」

「シーナは関係ない!関係あるのソフィだもん!なんでシーナまで殴るの!?」

「その子に手を出さないで!私ならいくら殴っていいから!」

「なら、お望み通り殴ってやるよ!!」


 シーナを羽交い絞めにしたまま別の男がおなかを力任せに拳を振るう。鳩尾にもろにパンチを受けたシーナは軽く失神して意識が朦朧となりかけていた。

 そしてシーナのツインテールを引っ張り顔を無理やり上げると男が舌なめずりする。


「なかなか可愛いじゃねえか、こいつは死ぬまで犯し続けるか」


 男たちは気が狂ったように下品な声を上げている所にテトが帰ってきた。





 私が居なかった数分の間にこんなことになるか?いや、恐らく付けられていたいたに違いない。この子に一体何の恨みがあると言うんだ。それに関係のないシーナまで…

 こんなことが許されると思うなよ、この下郎どもめが!!


 私は持っていた食べ物の袋を地面に置くと男達へと近寄った。


「この子たちが何をした。貴様らに迷惑をかけたか?」

「あ?なんだこの爺さん」

「何をしたかだって?答えてやるよ、こいつは呪われた悪魔の分際でへらへら笑って人間様に紛れて暮らしてんだぞ?それだけで罪だろうが。」


 こいつらは本気で私を怒らせることしか言わないな。私も頭に来すぎて周りが見えなくなってきた。


「もういい、黙れ小僧」

「あ?ジジイこそ舐めた口聞いてんじゃねえよ!!」


 一人が殴りかかってきたが力の乗り切っていない遅いパンチなど前線から離れて数十年の私でも避けられないはずがない。

 顔を少しそらしてそれを避けると腕を掴んで握り潰す。男の腕からミシミシと骨がきしむ音が聞こえるがそんなものソフィアとシーナが受けた痛みに比べたら軽いもんだ。


「いてっ、放せよジジイ!」

「もはや酌量の余地もないな。自分のしたことに死ぬまで後悔させてやる」


 掴んでいた男の腕を膝と肘鉄を使って逆方向にたたき折った。直後、男の情けない悲鳴が響きわたるがお構いなしだ。まずはシーナを羽交い絞めにしていた男の目を突いて力を抜かせるとシーナを開放して、シーナにしたように体重を乗せて鋭いパンチを鳩尾にめり込ませる。気を失った男以外は残り三人でこいつらはそれぞれナイフや鉄パイプなどの獲物を構えてはいるが腰が引けている。こんなのとるに足らん!

 瞬時に肉薄し、ナイフを取り上げると足払いを掛けて仰向けに転がし、ろっ骨を思いっきり踏みつけて2、3本無理やり折る。そして残りの二人は奪い取ったナイフで威嚇し、戦意を喪失させたところで他の奴らと同じ様にどこかしらの骨を叩き折った。


「二度と現れるな。次顔を見せたら本気で殺すと思え!」

「「ひいいいいい」」


 男どもはお互いを支えあってその場から一目散に逃げだした。

 私は抱き合って怯えているシーナとソフィアのもとへ行くと覆いかぶさるように抱きしめた。


「すまなかった。私が離れたばっかりに二人を痛い目に合わせてしまった…」

「えぐっ、でもよかったです…テトさんが来てくれなかったら今頃どんな目にあわされてたか…」


 シーナは泥で汚れ、顔もあざだらけと女の子がしていい顔ではなかった。そんな状況なのにソフィアを身を挺して守ってくれたこの子に私は涙が抑えられなかった。


「ありがとう、ソフィアを守ってくれて…本当に…もう安心しなさい、これからは私が命を懸けて二人を守ろう」

「テトぉ…ソフィ泣かなかったよ?でも、ソフィのせいでシーナがけがをしちゃったの!!」


 ソフィアも殴られ、綺麗だった洋服は土で汚れ切っていた。そしてその瞳には大粒の涙が浮かんでいた。一体この子が何をしたと言うのだ…こんな年はも行かない子供を虐待するほどの罪なのか?そしてなによりソフィアは痛みに慣れつつある。今までも我慢し続けたのだろう、本当に心が痛い。私も私で何が『助ける』だ!肝心な時にそばに居てやれず、結果ひどいけがを負わせてしまった。これは私自身の問題だ、私自身で何とかしなくてはならない。

 ソフィアをきつく抱きしめて伝えたい言葉を伝える。


「私の前では我慢しなくていい…今回は私の責務だ、ソフィアは何も悪くないんだ。ソフィアの様に優しい子に罪なんてないんだよ、これからは何かあったらすぐに頼りなさい」

「う、ううっ…てとぉ!怖かったよおお!シーナも傷つけられちゃったぁぁぁ」

「二人とも………よく頑張った」






 三人はしばらくそのまま抱き合っていたのだがそれを見つめる不穏な影にテトは気づく由もなかった。



3話です!!

今回で少しテトの戦闘能力の高さを見せられたんじゃないかなって思いますがこんなもんじゃないですよ!


ソフィアとシーナはまるで姉妹のようなイメージで書いています。

いくら仲がいいからと言って出会ってまだ一日しか経ってないこの子事を体を張って守れますか?

シーナは作者が思っている以上に強い子なのかも知れません。



4話は予定ではテトの勉強回になりそうですので最後の伏線の回収は少し後になりそうです。


たくさんの評価、ブクマありがとうございます!

とっても励みになってます!

初めて読んでくださった方ももし宜しければ評価の方をよろしくお願いしますm(_ _)m


では次のお話で会いましょう!頑張りますよ!!

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