6・ただいま、お父さん
「ただいまー」
紅はガチャっと、家のドアを開けて、紅はそう言った。
「お帰り、紅。ご飯できてるぞ、お父さんも待ってたんだからなー」
「ふふ、ありがとう、お父さん!」
紅はふふっと笑って言った。
紅にはお母さんがいない。
紅の小さいころに亡くなったのだ。
紅のお父さんは、ひょんなことから魔法界へと迷い込んだ。そこを助けてくれたのがお母さんで、二人はひかれあって、結婚。魔法界に一緒に住んでいて、紅も生まれた。
紅が4歳ぐらいになったころ、お父さんとお母さんはなぜか急に離れだした。
ケンカでもしたのかな、と、紅は思っている。今でも、理由はわからない。けどあの時確かに、別々で寝だしたり、別々に出かけたり、別々にごはん食べたり、と二人は離れていったのだ。
そして、1年後のことだった。
散歩に行ったお母さんが、急に魔王に襲われて、死んでしまった。
紅は泣いた。わんわん泣いた。この時、紅はまだ5歳だから、すごく泣いて泣いて泣きまくっていた。
お母さんの時代には、「攻撃魔法」を練習するってことがなかったから・・・お母さんが魔王に会っても、どうしようもなかったのだという。自分の得意魔法すらもわからない時代だったらしい。
今は自分の得意魔法を知るのはもちろん、攻撃魔法の練習は当たり前なのだが。
お父さんは人間だから、もともと住んでいた人間界に戻ろうといった。もちろん魔王とかの危険に合わせないため。そして、今でも人間界で、紅は自分だけ魔女となっている。
お父さんが紅のことを思って、人間界に戻ったことはわかってる。
だけど、やっぱり、自分だけ違うってことに、時々、考えちゃうんだよね――――・・・紅は思った。
「・・・でさ、今日、咲穂の友達の綾夏ちゃんって子がやってきて、魔女について書いてある本貸してもらっててー。ビックリしたんだよねー」
「・・・ゲホッゲホッ、ゲホゲホ、そ、そうなんだ」
お父さんはいつも以上に咳をしていた。
「・・・お父さん、大丈夫?風邪ひいた?」
「あ・・・ゴホッゴホッ、それが・・・紅・・・」
・・・お父さん、何か変。
「お父さん、薬飲んで寝てたら?普通の風邪じゃなさそう――――――」
ゲホッゲホッゲホッゲホッ!!
お父さんは急に、ありえないくらいの咳をした。
「お父さん!?」
「・・・ごめん、ゲホッゲホッゲホッ、紅・・・」
お父さんは言った。
「・・・お父さんのこれは、魔王の呪いなんだ・・・」
「・・・は?」
「・・・ごめんね。お母さんと離れていたのは、お母さんが散歩中に魔王に会って、呪いかけられたから、離れろって言われ――――ゲホッゲホッゲホッゲホッゲホッゲホッ!!!」
「え、えぇ!?お父さん・・・」
紅は嫌な予感がした。
お母さんの時も、こうだった。死ぬ直前に、ありえないくらい咳してて、それで、死んじゃったんだ。
「し、死なないよね?死んじゃ、ダメだよ!?」
「し・・・死なないから。ゴホッゴホッゴホッ。安心して・・・」
お父さんはそう言った。