2・ハーレム状態の猛
「おはよう」
声をかけられて、猛は振り向いた。
「あ、ユリ。おはよう!」
「・・・あなたたち、うるさいのだけれど。HRの間、ずっと紅としゃべっていたわよね?」
「あっ・・・」
「次からは静かにして頂戴。私、迷惑しているの」
ふいっと、そっぽを向いた彼女の、高い位置で結ばれた綺麗な黒髪のポニーテールに、猛は思わず釘付けになった。
彼女の名前は、神田ユリ。学級委員長を務めていて、とってもクールな女の子だ。
「猛?どうかした?」
「あ、紅。いや、お前との会話がうるさいって、ユリに怒られちゃってさー」
「えー。紅、しゃべってないと、生きてらんないっ!」
ふわふわスマイルを紅が見せたところで――――猛の背後に影が・・・
ばちーーーん!!!
「いってぇぇぇ!!!」
「おはよーーーーっ!!たーける!」
にかっと、歯を見せて笑ったのは・・・
「渚!痛えよいつもいつもっ!」
「何言っとんねん。うちがたたいてやんないと、猛、寝ちゃうもんな?むしろ、感謝してもらっても、ええんやでぇ~?」
「はいはい、渚さん、いつも助かっております」
猛が棒読みで答えて、渚は、「はぁ!?」と、怒ってぽかぽか猛をたたいた。
赤音渚、赤茶色のショートカットが似合うスポーツ万能の女の子だ。
渚の両親が関西のほう出身なので、ときどき、関西弁が出る。
「猛、よくわかんないよお前は!さっきは文句言ったかと思えば、助かっておりますって言ったりっっ」
「渚お前は、演技ってものを知らないの?お友達に演劇部の方はいませんかぁー??」
「い、いるけどさ!それとこれとは関係ない!!」
渚はそう叫んだあと、後ろを通った女の子に気づいて、声をかけた。
「おはよう、咲穂!」
「えぇ?あ、あ、お、おはよう、あかねん」
美しい白い髪をおさげにして、そのおさげを揺らしながら、咲穂と呼ばれた女の子はふりむいて、あいさつをした。咲穂があだ名で呼ぶのなんて、渚くらい。渚と咲穂は性格は正反対だけど、一番の親友なのだ。
丸井咲穂。真っ白な髪を持っていて、いつもおさげにしている。それから、目が隠れるくらい、前髪は長い。
「おはよう、丸井さん」
「・・・・・・・おはよう、ござい・・・ます」
「敬語じゃなくていいんだってば。もっと軽く話しかけて?」
猛が笑いかけると、咲穂は「・・・ごめんなさい」としょげた。
「ほらほら、もうすぐチャイムなるんですけど。着席してくれると嬉しいわ」
ユリが声をかける。紅と渚、咲穂、それから猛はあわてて座った。
――――今、猛は、いろいろあって、ハーレム状態なのだ。