団欒と鍛練
まあ、この子はしばらくは大丈夫だろう。
流石に生まれたばかりの赤子を放り出すほど父上も鬼畜じゃない。
次は義母上の様子を見に行ってみるか。
……これはまずいな。
体だけではなく、精神にもかなりのダメージを負っている。
今はまだ少し体調が優れないぐらいだが、これから徐々に衰弱していくだろう。三年もてばいい方だろう。
まあ、ある意味仕方ない。出産なんて元々命懸けと言ってもいいくらいの行いだ。
それなのに、あの子に眠る力は強大にして、異質。
よくもったと言うべきだろう。
とにかく、このままでは義母上はすぐにではないが、早くに死んでしまうだろう。
しかし、俺はまだ動かない。
後1年もすればしっかりした言葉を話してもそう怪しまれないだろう。
幸い、1年は持ちそうだ。
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一年経った。弟の出産から寝込む事が多くなった義母上を、部屋に忍び込み、少し楽になる位に体調を整え、庭に連れ出してみた。
専属侍女のレーナさんは最初心配していたが、三才児で美少女のような俺の子どもらしいお願いと、義母上の顔色がいつもより本当に良いことを確認し、許可してくれた。
散歩中も、少しずつ、本当に少しずつ義母上を癒していった。
その日は少し庭を歩いてお開きにした。
数日後、母上と父上、兄上と妹も誘い、今度は庭でお茶をしてみた。
義母上も楽しそうだ。
「今日は顔色が良いな」そう義母上に声をかけるのは、父上であるエドヴァルド=ヴァン=ブラッドベリー
「本当に。元気になって良かったわ。」そう言うのは、母上であるマリア=リーン=ブラッドベリー
「ありがとう。なんか、ライと一緒にいると、元気になるのよ。」そう答えるのは、義母上であるクラリス=エル=ブラッドベリー
そして、母上の横に座るのは、今年6才になる兄のニコラウス=ヴァン=ブラッドベリー
義母上の膝の上に座るのは、腹違いの妹の
ローズ=ヴァン=ブラッドベリー
とても和やかな雰囲気だ。
ちなみに我が弟は、別邸で最低限の使用人と乳母に世話を任し、放置されている。
出産の翌日、黒髪でさらに赤目であることが分かり、さらに気味悪がられるようになった。
俺もいまのところ放置している。流石にこの歳から鍛えようとは思って無い。あの子が4才にもなれば、十分動けるようになってるだろうし、俺もその頃には家庭教師を付けて貰えるだろう。
そうすれば、練習相手と称してあの子を鍛えられる。
そのときは、もちろん悪役感満載でいこうと思う。
楽しみだな。
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次の日、また少し騒がれた。
どうやら、今世の俺の眼は赤いらしく、それもまたいけないことらしい。そんなに髪や眼の色なんて気にするもんなね?
…気にするんだろうなぁ。そもそも、前世の地球にだって、肌の色で差別があったんだ。そんなにおかしなことじゃないか。
それを学校で学んだ時は特に何も思わなかったが、それは結局他人事だからだ。自分に実際に降りかかると、困るなんてもんじゃない。というか俺、さっそく詰んでないか?
とにかく、今は捨てられないことを祈るばかりだ。
だが、祈るだけでは駄目だろう。体は頑丈さ以外は未発達。首も座ってない。しかし、この世界には魔法がある。魔力がある。魔法の使い方はわからないが、魔力なら動かせるかもしれない。
瞑想でもしてみるか?とりあえず目を閉じて、集中!………zzz
あれから一年。俺は、広い敷地内の片隅の小さな別邸で暮らしている。一人の乳母と、数人の使用人が交代でお世話してくれている。ただ、やはり俺は嫌われているようで、使用人に笑顔はない。幸い、乳母の人は髪や眼の色を気にしない人のようで、この人は俺を丁寧に扱ってくれる。
他の使用人は、最低限ちゃんとしてくれる人もいれば、とにかく雑な人もいる。これ、【頑強】取ってなかったら俺死んでたかもな。
まあ、その赤ん坊にしてはおかしい頑丈さのせいでさらに気味悪がられているんだけどな。後、俺があんまり泣かないのも原因かもしれない。後悔してもどうしようもないが。
とにかく今は耐える。それしかない。
それから、魔力の鍛練の方は、最初は瞑想しようとすればすぐに眠ってしまったりと上手くいかなかったが、一月程でぼんやりと何かを感じるようになった。さらに一月程でかなりはっきりと感じられるようになった。その後、どうにか動かしてみようとすると、やはり最初はなかなか上手くいかなかったが、少しできるようになると、だんだん上達していった。
今は体の外ででもかなり自由に動かせるようになり、同じ部屋の中なら、他人の魔力も感じられるようになった。。
さて、この調子でいこう。