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17 三人目の魔女


 フィーネと別れ、馬車へと戻った俺たちはリトリルの提案で昼食を取ることにした。皆一様に無言だったが、魔力を消費したためか、俺の胃袋はいつにも増してうるさかった。


「待つか、行くか、選択肢は二つだな。どうする」


 肉を頬張ったままアルバンテが問う。


「行くしかないでしょう。待っている時間がもったいない。今回は想定外の力が働いているようだしね。村の崩壊から始まり、不潤石の発見、魔女の不在。色々と起き過ぎている。裏で動いている者がいる以上、こちらから仕掛けないと掴めるものも掴めなくなる」


 オルレンの考えに異論はなかった。

 口には出さなかったが、魔女との小競り合いも想定外のことに含まれているだろう。そのきっかけが俺であることも不安要因の一つに違いなかった。

 フィーネの話からアウラ=エクリスタがレッドストーン王国に向かったことは判明したが、現在の居場所はフィーネたちにも分からない。


『国王からの呼び出しを受けたの。大量の魔獣が境界壁を越えてやって来たとね。アウラ様はレッドストーン王国との間に協定を結んでいたから直ぐに王国へ向かったわ。村の防衛のために私たちを残してね』


 協定内容は魔獣の討伐。

 境界壁から侵入した魔獣を討伐する代わりに、食料や魔石等の供給を要求していた。


『王国から送られてくる食料の一部は村人たちに配給していた。アウラ様は本当に優しいお方よ』


 まだ見ぬ魔女の話に想像だけが膨らんでいく。

 村人たちは現在、魔女の屋敷に避難しているそうで全員無事とのことだった。こうして周りの人々と友好的な関係を気付いている魔女は珍しい。それだけにアルバンテは少しばかり戸惑っているようで、俺自身も同じ気持ちだった。


「これだけの騒ぎを起こすほどの奴らだ。我々だけで戦力が足りるとも思えないが」


 懸念材料が多すぎる、と、いつもと違って弱気になるアルバンテ。


「今から応援を要請しても到着する頃には全てが終わっているかもしれない。この場は私たちだけでどうにかするしかないでしょう。お互いの任務もあることだし、ここはアウラを追いましょう」


 異論の余地は無く、結局満場一致でレッドストーン王国へ向かうことが決定した。

 俺は残りの昼食を頬張り、今朝汲んだ川水で胃までそれらを流し込んだ。次なる目的地を目指すため、俺たちは再び馬車に乗り込んだ。


「フィーネが来たら出発しましょう」


 身支度を終え、皆が馬車に乗り込んだところでオルレンが皆に言う。別れ際、フィーネはレッドストーン王国への案内図と同国の国王への紹介状を後で届けると言っていた。レッドストーン王国はオリガナ王国との同盟国ではあるが、統率体制はオリガナとは完全に独立している。

 直接的な交渉はこちら側にとっても不利益を被る場合がある、との見解から協定を結んでいるフィーネたちから紹介状を貰うことが最適であるとの考えだった。


「それにしても遅すぎないか」


 アルバンテの呟きにオルレンが頷いたその時、傍の林の影が微かに動いた。ゆっくりと魔力の気配が近づいてくる。皆の注目が林の方に向けられ、僅かに生じたその一瞬の隙に、魔女は俺たちの眼前に現れた。


「森の中に何かいるの?」

 耳元で囁く声。その瞬間、身体から一切の力が抜け、壊れた傀儡くぐつのようにその場にへたり込む。他の皆も同様で、その場で魔女だけが陽気な笑い声を上げていた。


「フフッ、これで二度目じゃないかしら、魔女に驚かされるのは。あなたたちはオリガナ王国の精鋭さんなんでしょ。それで本当に国を守れるというの」


 魔女は立ち上がり、踊るようなステップを踏んで馬車から飛び降りた。


「そうは言いつつも気配絶けはいだちは魔女の得意技なんだけど。世界中の悪魔どもから逃げ回るのに必要だからね」


 唯一動かせる目を無理やり魔女へと移す。顔は仮面に隠されていて分からない。小柄な体格で、端が大きく広がった服を着ている。魔女の装束なのか、裾の部分に紺の線が入っている以外は全てが白色だった。


「こんなもの!」


 魔女の拘束を初めに解いたのはアルバンテだった。すぐさま剣を振り抜き、魔女に斬りかかる。しかし魔女の額に触れる直前で剣は止まった。


「なぜ避けようとしない」

「あなたが優しいからよ」

「答えになっていないな」

「私は戦いに来たわけじゃないもの。無駄な魔力は使いたくないし、挨拶はもう済んでるからね。大国の兵士さんがどれくらい強いのか、見たかっただけだから。大したことなかったけど」


 言い終えると彼女は仮面を取った。藍色の長い髪が解かれ、そよ風に微かに揺らぐ。下ろされた前髪の奥には細く冷たい瞳が見え隠れする。さっきの二人とは全く違う、幼くも妖艶な魔女の姿がそこにはあった。


「初めまして、メイスと言います。以後お見知りおきを」

「随分な挨拶だな。お前もさっきの魔女の仲間か」

「家族よ。あなたたちの事は屋敷から見ていたわ。影人さんを連れているのね」

「お前たちはその影人とやらに異様なまでの殺意を持っているようだがな」

「そうね。今すぐにでも殺したい」


 メイスと名乗った魔女は俺に笑い掛けた。薄く冷淡な笑みに背筋が凍る。


「でもでも、ここに来たのはそれが目的じゃないから安心して。これを届けに来たの」


 そう言って、メイスは折りたたんだ紙と一通の封筒を取り出した。それらはレッドストーン王国への道筋が記された地図と国王へ向けた紹介状だった。


「私も一緒についていくわ。アウラ様にも会いたいし」

「ふざけるな、今すぐ屋敷に戻れ。さもなくば」

「あなたたちだけじゃ心配だしね。それとフィーネはもう来ないわよ。代わりに私が来たからね」


 アルバンテの横を素通りして、メイスは早々と馬車に乗り込んでくる。遠慮のえの字もなく、俺の横を陣取る。


「あなた今朝川水を汲んでた子よね。よろしく」


 余りに自然な態度に呆気に取られていると魔女はまた顔を近づけてきた。小さな吐息の温もりさえも届く距離で彼女は囁く。


「あの川水ね。上流でクマが用を足してたよ」

「なっ……」


 魔女の言葉に思わず吐き気がこみ上げる。思いっ切り飲んでしまった。他の者たちも同じく飲んでいる。ようやく力が戻った体を小刻みに震わせながら、せり上がる胃液を力づくで抑え込む。胸の嫌悪感が治まり、一呼吸吐いたところで俺はメイスを睨みつけた。


「それはホントなのか」

「ううん、嘘だよ」


 メイスは悪びれる様子もなく、今度は女の子らしい可愛い笑みを浮かべた。


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