17 黒い化け物
白い空に白い雲、白い地面に白い影。
統一された世界はこんなにも美しいものなのか。
俺が立つこの場所は、世界のいったいどこにあるのだろう。
何もかもが透明で、そこには何も映らない。
ただ、白い地平だけが何処までも続いている。
「どこだ……」
空間の区切りすら掴めずに俺は小さく踏み出した。とぼとぼと歩を進め、どこまで行ったのかも分からずに足を止める。振り返った先に広がるのは、一面が真っ白な世界。どの方角を見ても景色は変わらない。
「寂しい。こんなに綺麗な場所なのに」
地に足をつく感触も徐々に虚ろになっていくようで、やがて己の存在も朧げになる。
全てが眠る場所。
心が、薄れていく。
ザザザザザザザッ!
ノイズが響く。
突如出現する黒い池。
中心で小さな波が起こり、瞬く間に池全体が揺れ動く。池の中心が糸に引かれるように丸く浮き上がり、周囲の黒い水を巻き込みながら巨大な物体を形作っていく。
それはやがて何かの生き物のような形となり、その巨大な顔が真下に立つ俺を見下ろしていた。
「人の化け物……」
黒い塊から伸びてくる巨大な両の手が俺の体を優しく包み込む。
(温かくてとても暗い)
目を閉じると、もう覚めることのない夢に沈んでいきそうで、怖くて怖くて、けれどその恐怖を忘れさせるように黒い手の温もりが俺を温める。
そうだ、覚えている。
俺はどこかでこの感覚に出会ったことがある。
これは心の世界。
ここは俺の根源。
闇に包まれながら俺はまた眠りにつく。