お昼
この小説は、2話構成の予定でしたが3話構成になるかもしれません。
ある蒸し暑い夏のことだった。
僕はまだ中学2年生くらいで、まだまだ子どもだったのに変なとこが大人っぽくて、もう自分は子どもじゃないんだなんて子供っぽいことを思っていた。あの頃は…
***
夏休みも後半戦になって、前半の夏休みを無駄に過ごしてしまったと危機感を抱いた僕は、仲間たちを自宅に呼び集め一年前から少しばかし考えていた計画を発表した。
「あそこの川にある柳の木の下には夜になるとお化けが出るらしいんだ。そいつを今日、見に行こう。」
リビングのテーブルを囲んで俺は二人に言った。
「船越、わざわざ暑い中やって来てやったのに話ってそんなことか?」
氷室が退屈そうに言った。
「そんなことってなんだよ。お化けだぞ?モノホンの!」
「モノホンって、見てみなきゃ分かんねぇじゃないか。それに夜は外に出歩くなって母さんが。」
氷室はポテチを一枚取ってかなり冷たい目線でこちらを見る。
「面白そう!!行こうよ!氷室!」
氷室に対してやる気まんまんなのは桜木。
「お前、ホント男勝りだよな…お化けってアレだぞ。ラジカセから出てくるサダオとか風呂場のハナオとかそういうヤツだぞ。」
氷室は、いつも消極的だ。
「大丈夫。だって、サダオって深夜までラジオ聞いてる人に『もう寝なさい!』とか言う人でハナオも風呂釜でウトウトしている人に『溺死するぞ!』とか言って驚かす人でしょ?全然怖くないよ。」
始めてその話を聞いた4、5歳の頃は怖かったけど。
「人じゃないから…怖いとかいう問題じゃないし。」
りんごジュースを飲んで、俺は口を開いた。
「柳の木の下のお化けは、そんなやつらとは違ってもっと怖いそうだ。」
「ほんとほんと?!やったぁ!!見に行こうよ!!」
「なおさらやめた方がいい。」
こんなに両極端な二人はどうして仲良くできてるんだろな…なんか不思議。
「それで、だれから聞いたんだ?その話。」
氷室がいやなとこを突いてきた。
「えーとな…たしか夢の中?」
「やめよう。ダメ。ゼッタイ。それヤバイやつだわ。」
ドラックじゃねぇよ…
「氷室〜。行こうよぉ〜。いっしょに行こうよ〜。」
桜木が氷室の腕持って体ごと揺らす。
「ほら。桜木はこう言ってるぞ。」
「うんうん!」
桜木が氷室を解放する。
「第一、母さんが…」
ちょっと青ざめた表情になってしまった氷室が、反抗する。
「なにかあったらすぐ帰ればいいし、三人もいるんだからなんとかなるって。」
だから二人を呼んだんだ。
「楽観的すぎるんだよ。お化けってのはな…怖いんだ。立ち入っちゃいけない領域なんだ…」
青ざめた顔で言われると少し説得力がある気がした。しかし
「氷室らしくねぇな。どうしたんだよ?」
「そうそう。らしくないよ。氷室。」
消極的だが、“やるときはやる”という定評を持つ氷室がここまで抵抗するのは、久しぶりだ。
「仕方ない。ちょっと怖い話をしてやる…」
氷室は、一拍おいて言葉を続けた。
「これは、ずいぶん昔の話なんだが、ある山におじさんとおばさんが住んでいたそうだ。ある日、おじさんは山へ芝刈りへ、おばさんは川へ洗濯へ…」
「ねぇ。氷室、ももタロさんの話?」
興味なさそうに桜木は、ポテチを食べ始める。
今のところ“おじいさんとおばあさん”が若干若くなったことしか変わってない。
「ちがうわ!まぁ最後まで聞け。それで、川で洗濯をしていたおばさんは、川上から何かが流れてくるのが見えた。よく見ようとしても老眼だったおばさんには何が流れてきたのか分からなかった。だからおばさんは、川へ入ってそれに近づいてみた。なんと美少年だった。」
「美少年って、美少年である必要ある?」
「ある!」
素朴な疑問に氷室でなく桜木が答えた。
「そ、そう。」
女子ってやっぱりわからない。
「そういう言い伝えだ。さて、美少年を見つけたおばさんは、慌てて川から引き上げて息を確かめる…微かだったが、息もあり脈もあった。おばさんは、しばらくの間この美少年を看病してやろうと美少年を家まで背負って帰っていった。」
「よかったよかった。」
桜木は良かったらしい。
「めでたしめでたし?」
「話はこれからだ。その頃、山で芝刈りをしていたおじさんは見るからに恐ろしい鬼と出会っていた。鬼はおどろおどろしい声でおじさんに言った。『ここらで、俺の息子を見なかったか?』おじさんは、素直に『知らないです。』と答えた。『本当に、本当に、知らないんだな?』鬼は念押しする。おじさんは知らないものは知らないから『知らないものは知らないです。もし見かけたらこの場所まで連れて来ましょう。』と答えた。鬼はおじさんを信じたようで『分かった。お前の提案通り鬼の子を見かけたら必ずここに連れて来い。もし見つけてもここに連れて来なかったらタダでは済まさんぞ。』」
「氷室。なんか流れ分かったわ…」
これからおじさんとおばさんは、美少年を我が子のように育てていく。しかしその美少年は鬼の子どもで、鬼に見つかったおじさんはやられてしまう…感じだろう。
「船越、白けるのこと言うなよ…」
どうやら当たりだったようだ。
「え?わかったの?」
桜木は、まだ分からないらしい。
「ほら。わかんないヤツもいるし。」
桜木の仕業で残りわずかになったポテチを氷室と俺が争い、それが終わると氷室が話を続けた。
「まぁ、そんなことあっておじさんは芝刈りを終えて帰ってくる。おばさんは、眠っている美少年を連れて先に帰っていた。それで、まぁお察しの通り、おじさんはおばさんが不倫したと勘違いしておばさんを日本刀で…」
「その流れは読めなかった…」
なんだ、この敗北感は…
「そうか。日本刀がおばさんに降りかかろうとしたとき、突然 美少年が目覚めておばさんの身代わりになった…
おじさんは我に返って、己の行為を恥じ、丁寧に美少年を埋葬した。
その日から夜になると、美少年を埋葬した墓場からうめき声が聞こえるそうな…」
「……。おしまい?」
俺が念のため質問する。
「おしまいだ。」
氷室がハッキリと答えた。
「なんかビミョー。」
桜木は正直者だ…
「微妙って…一応、じいちゃんに聞いたやつそのまま話したんだけど。」
「それで、鬼の話は?」
なんか無かったことになってないか?
「たしか、今も子どもを探しているそうだぞ。」
曖昧な記憶で答えられた。
「美少年が鬼の子どもじゃなかったの?」
今度は桜木が質問した。
「俺もそう思うけど、じいちゃんに聞いたら『そんな話は知らん。』だって。」
氷室のじいちゃん、だめだろ。
「じゃあもっとビミョー。」
「氷室の話は、怖いかビミョーだったし、今日、行くか。」
区切りがついたので再度、提案する。
「やめとこうぜ…」
「行こう行こう!」
二人の反応は変わらない…
「お化けだろ…絶対ヤダよ…」
そんなに“お化け”が怖いのだろうか…まだ見たわけでもないのに。
「一回だけだし、夏休みだし、絵日記書けるし、行こうぜ。」
「絵日記?そんな宿題あったっけ?」
絵日記という単語に氷室が食いついた。
「確かあったよ〜。」
桜木は、りんごジュースを飲み終えた。
「絵日記かぁ〜。でも嫌だなぁ…」
絵日記でもお化けには勝てないらしい。
「どうする?そこまで言うなら行かなくてもいいけど。」
ここはあえて引いてみる。逆に行くとか言い出すかもしれない。
「じゃ、行かないってことで。」
失敗した…
「えぇ〜。行こうよ〜。」
桜木がまた氷室を揺さぶる。
「ガキじゃないんだから一人で…いや。絶対に行くなよ。」
振られながらも氷室は曲がらない。
「何それ、フリ?」
ピタッと、揺れが止まった。
「フリじゃない。どこであれ、夜中に年頃の女が出歩くんじゃない。」
氷室がそう言ってくれたので、俺は閃いた。
「じゃあ、アレだ。夕暮れに行こう。日が沈む頃には全員帰宅できるくらいに。それなら何とかなるだろ?」
「知らねぇよ。俺、お化けじゃないし。」
「だろうな。でも夜よりかはマシだ。」
「仕方ねぇな…」
やっと氷室が折れてくれた。
そんなわけで、俺たちは夕暮れに柳の木の下へ行くことになった。




