旦那様と侍女の戦い〜お嬢様、お出かけ編〜
『お嬢様、それは間違ってございます』続編です。
お嬢様は最後にちょこっと登場。
お出かけの前に旦那様との言葉のかけあい。
ついに、と言うべきなのか。
長年、病弱で外に出ることを許されなかったお嬢様のお出かけ日程が決まりました。
環境とお薬、お嬢様自身の身体の成長もあってか激しい運動をしなければ問題ない程度に自由が利くようになったようです。これには屋敷中で喜びの声があがりました。
えぇ、私もその中の一人です。
そのため以前から約束していたお出かけを実行するときがやってきました。
お医者様の許可も得て、天候も考慮し、ルートも完璧なまでにシミュレーション済み。
お嬢様も楽しみしているこのお出かけの唯一の障害は。
「ダメだ。出かけるなら家の周りで良いではないか。街にまで買い物など行って何かあったらどうする」
親バカを発揮している過保護な旦那様である。
ちなみに屋敷に仕えている執事やメイド長、果てはコックまで本当のところ、この外出に反対をしている。お嬢様が楽しみにしているので言わないでいるが。
旦那様はお嬢様の悲しい表情よりも、何かあった時の心配の方が勝るようで先ほどから頑として譲らない。
「旦那様。そうおっしゃってもうひと月が経ちました」
「そっ、それは……」
「心配なのは勿論わかりますが、遠ざけるだけでは今後の教育によろしくないかと」
「しかしだな、街に行くのは初めてなのだぞ?」
「何事にも初めてはございます。お嬢様が街に出て何かをする事は全て“初めて”でございます。病弱な為、常に屋敷内か屋敷の周りしか行ったことのないお嬢様をこのまま文字通り箱入り娘にしてしまっても良いのですか?」
「そんなこと思ってはおらんよ。反省しているからこそお前を雇ったんだからな。ただ心配で心配で……そうだ!私も街に一緒に」
「それはなりません旦那様。外出予定日は旦那様にはお仕事がございます」
「大事なセシリアの為なのだ、仕事など後回しに」
あぁ、もうこの親バカめ。
旦那様を諌めるのは私の仕事ではないのに。今回ばかりは執事もメイド長も当てにはできないようだなもうっ。
「旦那様。その日の仕事はそのような軽い内容ではなかったはずですが?お嬢様が大切なのはわかっております。が、仕事も満足に出来ずにお嬢様にひっつく旦那様を私が許すとでも思っておいてで?」
「では、外出を別の日に」
「ありとあらゆる情報を集め、その日にと決めたのであります。雨が降らない限り変更はいたしません」
「リ、リリー。お前は容赦ないな」
「私の主はお嬢様にございます。お嬢様の望みを叶えるためならばどのような手段・過程も問いません。当日は私が離れませんし、護衛も何名か手配しておりますのでご安心ください」
これ以上の討論は認めないという笑顔を添えれば旦那様も漸く折れてくれた。
若干涙目に見えるのはきっと気のせい。
旦那様がこれくらいの言い合いで泣くわけないはず。えぇ、私のせいなんかではないはずですって。
「お嬢様、お出かけの日取りが決定いたしました」
そう伝えると満面の笑みを浮かべるお嬢様。
あぁ、旦那様との戦いの疲れも癒される。
「さすがリリーね!あのお父様に許可をもらうだなんて」
「旦那様はお嬢様の気持ちの強さに認めてくださったのですよ」
事実、毎回子犬のような潤んだ瞳で見つめられていたので私が話をしなくてもそのうち折れていただろう。今回は間に合わないので私が説得しましたが。
「もう、リリーったら。でも楽しみだわ」
「お嬢様、約束を忘れてはいけませんよ?」
「もちろん覚えているわ。リリーから離れない、勝手に動かない、体調が悪くなったり疲れたら隠さずに言う、たとえ知っている人でもリリーが認めない限りついていかない。でしょう?」
「その通りでございます。もし守れなかった場合は私が許可するまで街へのお出かけは禁止でございます」
「リリーはやると言ったらやりますもの。必ず守ります」
何故お嬢様の笑顔が強張っているのかわかりませんが、約束は守ってもらえそうですね。
舞い上がって忘れてしまう可能性もあるので私も油断はしませんが。
さて、お嬢様お出かけ作戦の最終確認でもしておきましょうかね。
お嬢様のお出かけまで書ききれなかった……。
次頑張ります。