8列車 気持ち決定
そのまた翌日。
「結局今日も出さなかったんだな。」
「やる気ない奴のやる気を底上げしてやったって無駄。ともかく俺にはやる気はない。何と言われようと絶対やらない。」
「はいはい・・・。」
「何。」
このところずっと思っていたことを永島に打ち明けてみた。
「永島。お前寂しくないのか。」
「えっ。」
「なんか知ってるから余計こう感じるのかなぁ。お前を見てると今のお前より中学の時のお前がもっとイキイキしてた気がする。」
「・・・。」
「今からいつものお前になってっていうのは無理っていうのは分かってる。そうしてくれてたのはあいつだっていうの分かってるけど、元気がないお前はお前らしくない。」
「・・・。」
「俺思ってたけど、お前はあいつのことが好きなんだろ。今からでも遅くない。あって気持ちを確認しあうだけでも自分の気持ちがもっと落ち着けるんじゃないかって。」
「・・・。」
「こんなこと言いたくないけど、何か言ってくれよ。ずっと黙ってるってお前らしくないから。」
「気持ちだけなら確認し合ったかもな。卒業式の時に。」
「・・・。なんだ。それなら。」
「寂しいっていうのは当たってるかもな。いつも話してたやつが今はいないんだから。」
「・・・。」
しばらく机を挟んだ状態でいる。
「永島。俺でもいいか。」
その言葉で顔を上げた。
「俺にお前の電車の知識ぶつけてくれ。俺電車のことはわかんないけど、覚えることだったらお前にも負けない。お前が持ってる鉄道知識を俺にぶつけて・・・。もっと言っちゃえば俺をあいつと思ってくれて構わない。それぐらいの気持ちで俺と話してくれ。そのほうが断然お前らしい。」
(宿毛。)
「なぁ。頼む。暗いお前は正直見たくないんだ。」
「・・・。悪いけど、それはできない。半分萌だからできったってところもある。それをお前が再現しようとしたって無理だ。宿毛に電車のことは覚えられない。」
「なんでだよ。」
「じゃあ、聞くけどお前東海道新幹線がどっからどこまで走ってるかわかるのか。」
「そ・・・それは。」
「最低限今この段階でその話ができないと・・・。」
「決まったわけじゃない。今からでも間に合う。俺がそのこと全力で覚えれば1日で十分だ。掘り込んだところまで・・・。」
「だから無理だって言ってるだろ。その知識は萌だから習得できたんだ。いくら頭がいいからって。お前の頭はそういう風にできてない。宿毛は・・・、お前はいつもみたいにしてくれればいい。それだけでいい。」
「永島・・・。」
「自分で言うのもなんだけど、なんかこれだけで俺たちは終わらない気がする。今元気が少しないのは我慢の時だと思う。」
「・・・。」
「分かった。そんなに簡単に終わらない来いっていうのは俺もうすうす感じてる。・・・。でも・・・、どうしても我慢しきれなくなったら俺に言えよ。なんでも受け止めてあげるからな。」
「宿毛・・・。ありがとな。分かった。どうしてもそうなったらお前に鉄道知識いっぱいぶつけるからな。」
「はっ。ぶつけるものは悩みじゃなくてそれかよ。」
「さっきそうしてくれって言ったじゃん。」
「・・・。そうだったな。」
その日の放課後。
「今日また新入部員が来たぞ。」
今日は一段とテンションの高い善知鳥先輩である。
「また新入部員かよ。今年は善知鳥が言った通りブレイクしたな。」
「さぁ、新人入って来い。」
そう言われてはいってきた人は・・・。木ノ本はその顔を見ると、
「あっ、箕島君。」
「えっ。木ノ本さん。」
「新入部員って箕島君だったんだ。」
その会話を聞いている善知鳥先輩の目は明らかに光っている。
「何ハルナン。まさかハルナンの彼氏だった。」
「そんなんじゃありません。同じ中学同じクラスだった人です。」
「なんだ。つまんないのー。」
「はい。そういうこと言わない。」
「まあいいわ。それより今日はもう一人部員が・・・。何勝手に入ってるんだよ。」
善知鳥先輩がそう言ったとき全員その人の存在に気付いた。
「何か入ってきたし。」
「もの扱いしないでください。」
「いや。したくなる。」
「はい。サヤもそういうこと言わない。」
「とりあえずまずは名前だけ言ってくれるか。」
「1年4組の箕島健太です。よろしくお願いします。」
「1年7組。醒ヶ井瑛介です。よろしくお願いします。」
「あだ名はミッシィ、サメちゃんでいいよね。考えるの面倒だし。」
「そんな安易でいいのかよ。」
「その前に先輩。サメちゃんっていうのはやめてください。」
「何。文句でもあるの。」
「・・・。いえ、ありません。」
善知鳥先輩は醒ヶ井の文句を人にらみで退けると今度は僕たちの紹介に入った。
「こっちが鉄研部員。」
と言ってから人数を数えて、
「いないのはユウタンだけか。まあいっか。この部活の天然部長のサヤとモジュールデザイナーのアヤケンとマニアのナヨロン。北陸大好きのハクタカとその人大・・・。」
「それ以上何も言わないでください。」
そう言わせまいと楠先輩がその口をふさぐ。
「ぷはぁ。分かった。じゃあ、言い方変える。鉄研のホームヘルパーアヤノン。後は鉄研一お調子者の1年生ナガシィと1年生の紅一点ハルナンとあんまり部活に来ない背の高いユウタン。これで全員よ。」
「・・・。」
「だから、善知鳥先輩のそのハイテンション差で1年生がヒイテますって。」
「じゃあどうすればいいのよ。あたしからこのテンション取ったら何も残らないんだからね。」
「それはよく分かってますけど・・・。」
「分かってるならそれでいいじゃん。」
そのやり取りを見ていた箕島が、
「なぁ、木ノ本さん。この部活っていつもこんな感じなのか。」
「こんな感じだよ。まぁ、1年生の中にもそういう人いるけど。」
その人に目を向けて、誰かということを言う。
「納得。」
そういうと同時に心の中で思うことが一つあった。
(部活内でのあだ名がナガシィって言ってたな。俺と同じ感覚でつけてあるとすれば、こいつの名字は永島か。まさかとは思うけど、永島ってあれじゃないよな。)
「普段からこういう感じなんだろうけどな。」
「普段からねぇ・・・。」
(これでもしあれだったら驚きだぞ。)
しばらく先輩たちと話していると部室のドアがまた開いた。
「おお、イサタン。」
「手を上げろ。」
諫早は手で拳銃の形を作ってあからさまにこう言った。それに乗せられて手を挙げる人は・・・。
「うわぁ。お前ら手あげないと撃たれるぞ。」
「そこまでじゃないだろ。諫早が作ってるのは指拳銃。弾丸が出てくるわけないじゃん。」
「サヤ先輩。死んでください。」
どこから取り出したのだろうか。諫早が手にしていたものがいつの間にか本物の拳銃になっている。
「あーっ、バカやめろ。」
「そこまで驚かないでください。エアガンなんだから。」
「そんなの学校に持ち込むんじゃない。あぶねぇから鞄中しまっとけ。」
「諫早・・・。お前休日とかになったら山に分け入ってサバゲーでもやってるのか。」
「そんなのやってませんよ。休日は家で自分の模型いじってますから。」
諫早はエアガンをかばんにしまいながら言う。
「・・・。」
続いて空河と朝風が来て、中学生全員がそろう。
「諫早。お前本当にエアガン抜いたのか。」
「ああ。抜いた。サヤさんの反応が面白かったけど。」
「イサタン。後で覚えとけよ。」
「はーい。ちゃんと忘れまーす。」
こういう部活でいいのだろうか。でも、こういう部活だからいいのだろう。
それから数日が過ぎていき、4月20日。部活登録のあった新入部員は僕を含め8人。鉄研部は全員で14人となった。
これから岸川学園鉄道研究部(略KRC)の今期の活動が本格化していくのだ。
今回からの登場人物
箕島健太 誕生日 1993年4月5日 血液型 A型 身長 159cm
醒ヶ井瑛介 誕生日 1994年2月21日 血液型 O型 身長 165cm