778列車 見たことないものへの興味
2084年2月20日(第-3日目)天候:晴れ 東日本旅客鉄道陸羽東線鳴子温泉駅。
「温泉はやっぱ、気持ちいね。」
僕の隣で女性が言う。
「そうだね。また来ようか。」
「でも、次からくる○○じゃあ鳴子温泉通らないよね。」
何故そこだけぼかしたのだろうか。
朝早いと言うこともあって、鳴子温泉を歩いている人のほとんどは学生のように思える。妙に古めかしい制服に身を包んでいるところを見ると高校3年生ぐらいかと予測を立てる。しかし、駅に向かって歩いている人の中でスーツを着て、歩いている人は僕と隣の女性だけ。陸羽東線の通勤需要はほとんど無いとみていいのだろう。
切符を駅員に見せて、ホームへと入る。ガラガラと大きな音を立てて、全体が朱色一色で塗装されたキハ40形気動車が止まっていた。テールランプを付けている気動車は新庄方面行きだろう。跨線橋をあがって、古川方面行きの気動車に乗らなければならない。
「よいしょ。」
その一声で大きい段差を超えて、キハ40形の車内に入る。
車内はボックス席のほとんどが埋まっていた。といっても、ボックスシートに固まって座っている学生のグループと、そんな人とは関わりたくはないというオーラを全面に出して、読書をしたり、ただ風景を眺めている人のグループに分かれる。
「空いてないな。」
僕はそう言った。こういう地方では既に人のいるボックスシートは満席扱いするというのが地方の慣例らしいからだ。
「そうだね。立っていこうか。」
そういう声に僕は頷いた。
先頭に立つとだんだんと明るくなってきている風景をのぞむことが出来る。
「発車します。」
「ピィーイ。フュイーン。」
ぶっきらぼうな運転士の声が車内に響いたかと思うとキハ40形はブレーキを解除し、汽笛を響かせる。
「鳴子温泉出発、時刻ヨシ、タブレットヨシ。次停車、鳴子御殿湯。」
同じ運転士とは思えない。
「「ゆうづる」の出発までどうする。」
「「ゆうづる」・・・。」
「はっ。」
また目が覚めた。最近、こういう夢ばかりだな。
こういう夢を見るようになってから考えることがある。僕が一番気になるのは僕にいつも付いてくるあの旅人のことである。声はどこかで聞いたことがあるのだが、何故か顔がはっきりしない。
「何でだろうなぁ・・・。」
いや、やっぱり考えても思いつかない。これ以上考えるのはやめにしよう。
朝ご飯を食べてから、萌と一緒に常陸の言うアカウントを追ってみる。昨日はあんまり移動していないようだ。雪のせいで行程でも狂わされたのだろうか。ツイッターの投稿を見ているとそんな気がする。
「何か、どこかで見たような話ねぇ・・・。」
隣で萌がつぶやいた。
「えっ、見たような話って。」
「あっ、ナガシィには前にも言ったよね。私、最近誰かと旅行してる夢を見るって。」
「ああ。」
「私が最近見た夢となんか似てる気がするのよね。」
「偶然だろ。」
とは言ったが、どこか怖いところがあるなぁ。この人昨日は鳴子温泉で泊まっている。鳴子温泉の滞在は半日くらいしかない予定で、朝には鳴子温泉を発つ予定と書いて文章が終わっていた。
しかし、この人のツイートにリプを送る人も減ってきている気がする。この人が関わりを持とうとしないからだろうか。それとも「嘘を嘘と指摘する」のに疲れたのか、この人の最初のツイートからは返信の数が明らかに少ないのだ。返信など消されたツイートはどこにもないのだけど・・・。
「みんなこのアカウントが怖いのかな。」
「まぁ、僕たちの目で見てもおかしいからな。」
「だいたい、今最長往復切符の旅って出来るのかな。この人のツイートにはいつも「鉄道旅」って言うのと「最長往復切符」って言うハッシュタグが付いてるけど。」
「それは僕も思った。もうほとんど移動は新幹線だからな。途中下車するって言う気概さえ、今の鉄道利用者にはないのに・・・。」
「・・・ナガシィ。この人って結局何がしたいのかな。播州さんみたいに動画サイトの広告収入を当てにして、旅を継続したいわけでもないでしょ。今この人がしているのは自分がしている楽しい旅をただツイッターに投稿しているだけでしょ。」
「もしかしたら、それだけがしたいのかもね。」
僕は萌にそう言った。
数日間このツイッターを追っていた。この人は東北本線を南下し、仙台から常磐線経由の寝台特急「ゆうづる」に乗って上野に向かった。翌日は西鹿児島行きの寝台特急「はやぶさ」に乗って、九州に上陸している。鉄道ファンでなければ理解することの出来ない移動法であった。僕らもこの人のツイートを僕らの見たことのないものへの興味も含んで、楽しんだ。




