775列車 横軽の守護神
2084年2月18日(第-5日目)天候:曇り時々雪 東日本旅客鉄道信越本線軽井沢駅。
僕は特急列車から降りた。グリーン車は列車の中央部に連結されていたのだが、それを全く気にせずに先頭の方へと歩いて行く。特急列車は白を基調に窓まわりが青で、ピンク色の帯が入る。この色は「白山色」と呼ばれるもので、上野~金沢間を信越本線経由で運行する特急「白山」に使われる489系に使われている色だ。
「EF63の連結を見るのって初めてだよね。」
僕の隣でそういう声がする。
「そうだな。ここでしか見れないしちゃんとみとかないとな。」
僕はその声に他人行儀な答えをしなかった。どこか親しい人に話しているような感じで・・・。
先頭まで歩いてやってくるとEF63形電気機関車のシールドビームが見える。目にはライトが刺さるように入ってきている。恐らくハイビームで「白山」を照らしているのだろう。
「眩しい。」
僕の隣でその人が目のあたりを隠した。
「確かに、眩しいね。「白山」の運転士さんの為にロービームにした方がいいんじゃないかな。」
そんな声がEF63の機関士に届くはずはないのだが、タイミング良くロービームに切り替わる。
EF63の右側に乗っていた作業員が線路に降り立ち、持っている緑と赤の旗の柄を付き合わせる。「連結します」の意をEF63の機関士に伝えているのだ。
「ピョーッ。」
軽井沢に汽笛がこだまする。
「フュイーン。」
EF63の汽笛に489系が答える。489系の答えを待っていたようにEF63はゆっくりと489系に近づいていく。
「後3メーター。」
トランシーバーを持つ作業員の声がだんだんとEF63の大きな音にかき消されていく。僕は近づいてくるEF63にスマホを向け、写真を撮る・・・。
「えっ・・・。」
目が覚めた。
「ああ、目覚めるには結構もったいない夢だったな。」
そうは言ったけど、目覚めないとな。EF63形が現役のうちにスマホがあると言うことは現実にはあり得ない事態だからだ。
「おじい。起きて。ご飯だって。」
稲穂の声がした。
「ああ、分かった。今行く。」
僕は返事をして、ベッドの隣にあるリパルサークラフトに座る。このリパルサークラフトは浮いているので、自分の足で歩かなくても飛んで移動することが出来る。最近、足腰が悪くなり、こういうものに乗っていたほうが速く楽に移動出来るようになってしまったのだ。ああ、自分の足で歩けないわけじゃないから、こういう浮く椅子を利用する頻度は少ないよ。
リビングまで飛んで連れて行って貰うとおいしそうな料理が並んでいる。
「おじいちゃん、おはよう。」
「おはよう。」
そう言い、ちらりと家族の顔を見回す。常陸がいないなぁ・・・。
「常陸はどうした。」
「・・・得ない・・・あり得ねぇって。」
僕の後ろから常陸の声がした。
「常陸、おはっ・・・。」
思わず言葉を失う。目の下にクマができていて、かなり疲れているのだ。
「常陸。どうした。」
「あっ、じいちゃん。後で話があるんだけど。ばあちゃんも、母さんも来てくれない。あと、稲穂も。」
「常陸兄のオタクトークには付いてけないんだけど・・・。」
「えっ、ああ。分かったけど。常陸、昨日ちゃんと寝たの。」
「それが・・・。俺の中ですごい大問題を掘り当てちゃって・・・。」
「とにかく、ご飯食べろよ。大問題もご飯食べたら解決するかもよ。」
「うん、そうする。」
一口メモ
日本国有鉄道EF63形電気機関車
信越本線横川~軽井沢間の碓氷峠を越えるために製作された横軽専用電機。碓氷峠を越える全列車の横川側に連結され、列車との協調運転で66.7‰という粘着運転での最急勾配を登坂、降下する。そのため、この車両には特殊装備が施してあり、中でも電装を壊して列車を止めるブレーキ装置はその最たるものである。北陸新幹線の高崎~長野間の開業を機に信越本線の横川~軽井沢間は廃止となったため、現在現役で動く同型機は存在しない。
日本国有鉄道489系
国鉄が製造した481系からの系譜を受け継ぐ、特急型電車。485系に碓氷峠を越えるための特殊装備(EF63との協調運転機構)が追加されている。信越本線を走っていた特急「白山」、特急「あさま」として活躍した。信越本線の横川~軽井沢間の廃止以後も急行「能登」として活躍を続けていたが、「能登」の廃止をもって、全ての運用から離脱。全車両が廃車された。




