586列車 追いつかない頭
2062年3月22日・木曜日(第16日目)天候:晴れ時々曇り 西日本旅客鉄道紀勢本線白浜駅。
白浜は何をしようにも車が便利だ。観光をするためにはそれが一番なのだ。僕たちは亜美ちゃんがこっちに回してくれたドライバードロイドの運転する車に乗り込んだ。
「何処ニ行キマスカ。」
ドロイドがそう聞いてきたので、
「三段壁に行って貰える。」
僕はそう言った。
車で海岸を走り、三段壁の駐車場に車を止める。僕たちは車を降りて、三段壁の岩を歩く。スーツには不釣り合いな靴はこういう時に役に立つ。
「歩きづらい。」
僕は慣れたように萌をほっといてスタスタ歩く・・・が、掘っておけないから来た道を戻って萌の手を取る。それが終わればまたスタスタと歩く。
「もうちょっと手伝ってくれてもいいだに。」
と言うと、
「萌の隣は恥ずかしいだけだよ。」
「恥ずかしいって・・・。ずっと一緒にいるんだからいい加減慣れたら。恥ずかしくはないでしょ。」
「・・・ああ、もう大きな声で言うな。」
三段壁を後にしてから海中展望台に行くことにする。
車を走らせて貰い、海中展望台に着く。入場料を払って海に建つ展望台に向かうため、海の上に架かる橋を渡る。
「海中展望台は結構面白いと思うよ。」
僕は萌にそう言いながら、展望台に着いた。螺旋階段を降りて、展望台の一番下に点いた。ここは既に海の中である。円い窓が付いていて、海中を見通せるようになっている。僕はその窓から海中を見てみたが・・・。
「何にも見えないね。」
「ハハハ・・・。見えやすい、見えづらいは有るって・・・。」
そう言ったとき、僕の覗く窓の近くを魚が通る。
「あっ、魚通った。」
「えっ、どこ。」
「ほらほら、見えるよ。下の方。」
「下・・・。何にもいないけど。海底しか見えない・・・。」
「えっ、下にいるでしょ。見えない。」
「あっ、上にいた。」
「上・・・。上じゃないでしょ。」
「上だよ。ナガシィちゃんと見えてるの。」
「そこまで目は悪くないから。」
「ええ、本気で言ってる・・・。って・・・ナガシィから見たら下なのか。」
「えっ。」
僕は窓から顔を離す。すると萌と目が合った。僕らはただ違う窓から同じ方向を見ているだけだったのだ。
「違う窓から見てれば、そりゃ、見てる景色も違うら。」
「違うなぁ・・・ハハハ。」
この後も海中展望台からそのまわりを泳ぐ魚を見ていた。たまにはこうやって動物を見るのも悪くない。
京都府、東海旅客鉄道東海道新幹線京都駅。
ウチは時刻表を手に取った。今日お父さん達は白浜にいるなぁ・・・。そんなことを思いながら、切符売り場から聞こえてくる電子音声に耳を傾ける。券売機は盛んに切符を売っているようだ。景気の良し悪しにほぼ関係なく売り上げられる鉄道とはいい企業だ。
「何見てるんだ。」
話しかけてきたのは輝だった。
「お前かぁ。」
「お前かぁは無いだろ。時刻表見てどこか行くの。」
「ウチじゃなくて、両親がな。」
「ああ。例の最長往復切符ね。」
輝はお茶をコップに注いで、ウチの近くにおいてくれた。
「ありがとう。」
「気にするなよ。その最長往復切符の旅は成功してる。」
と聞いてくる。
「成功はしてるよ。大成功さ。主に嫁のおかげだけど。」
「永島のお嫁さんはお金持ちだもんなぁ・・・。僕もあのお金持ち具合にはあやかりたいね。」
「・・・ゴールデンウィークに東北行く人間の言葉かよ。」
「ハハハ・・・。ゴールデンウィークは家族サービスだよ。その件はありがとう。」
「・・・。」
「うまくいったら永島の両親とも会えるかなぁ。」
ウチはそれを聞き流す。
「どころで、最長往復切符ってどこ起点にしてるのさ。」
「嬉野温泉だけど。」
「・・・はっ・・・、えっ、う・・・嬉野温泉。」
「はっ・・・って。」
ウチも輝も理解が追いつかなかった。




