582列車 女の話は長い
2062年3月22日・水曜日(第15日目)天候:晴れ 西日本旅客鉄道東海道本線守山駅。
「サプリメント。」
僕たちは聞き返した。
「はい、これから先の旅をするにしても毎回毎回ホテルの朝食が食べられるわけではないでしょう。それに、全部の食事で野菜を摂取と言うのも現実的では無いと思いまして。」
亜美ちゃんが言う。
「今のサプリメントでしたら、バランスの良い栄養分摂取に関しては効果が大きいです。もちろん、野菜を食べられればそれに越したことはないのですけれども。」
「ああ・・・確かに・・・。」
僕は考えた。21日間ほぼ家にいない生活というものを続けているなかで、ちゃんと野菜を取れる食事というのはホテルでの朝食か、この家で取った食事だな・・・。駅弁には野菜が入っていないものだってあるし、亜美ちゃんの言うことは間違ってはいないか。
「お願い出来るかなぁ・・・。必要なときに局留めで送ってって言えばいいかな。」
そういうことは萌がさっさと決める。
「分かりました。じゃあ、此方もそのようにいたしますね。あっ、それとゴールデンウィークに常陸と稲穂を連れてってもらえますか。」
と言う。
「じゃあ、二人ともテストの点よかったんだな。」
「いえ、常陸も稲穂もいつも通りでした。合計点数はどちらも多少はよかったんですけどね。」
「ハハハ・・・。満点なんてまぁまず無理だな。」
「じゃあ、速いところ予定決めちゃった方が良いかな。」
「はい、お願いします。こっちも10時打ち頑張りますので。」
「頑張ってね。」
これから先のこともちゃんと決めないとなぁ・・・。少しばかり頭使うかぁ・・・。
僕たちはスーツを着て、準備をしてから自宅を出る。桜が植わっているところはピンク色が綺麗だ。吉野に桜を見に行こうかとも思っていたが、こういう所でじっくりと見れる桜が良い。人がたくさんって言うのは何か落ち着かないからなぁ・・・。
「ナガシィ。でる前に梓の顔見に行きたいからちょっと良い。」
僕は何も言わなかった。断る理由がないからなぁ。ちょっと頷いただけでも理解してくれる。
鳥峨家の家に来ると退院した梓ちゃんが出迎えてくれた。
「二人とも昨日は金沢の方までまわってきたんでしょ。やることが違うわねぇ・・・。」
呆れながら言葉を並べる。元気な姿を見れて僕は満足なのだが・・・。
「梓も大希君とどっか行ってみれば。人吉とか。」
「例の混浴・・・。大希に話したらね、「20の俺なら喜び勇んでいっただろうなぁ」だって。フフフ。エッチなのは今でも変わんないだに。何か言ってたわ。」
「何か言ってるって、ハハハ。」
「ちょっとあがってく。お昼ご飯とか食べてないなら私がごちそうするけど。」
「じゃあ、お邪魔して良い。ああ、でもご飯は大丈夫、さっき食べてきたから。」
「良いわよ。どうぞ。」
梓ちゃんはスリッパを出してくれる。それを見ていると萌は僕に、
「ごめん、ちょっと付き合って女の話に。」
と言った。・・・許すか・・・。
「大希君は。」
「大希はおとといの飲み会で飲んで帰ってきてさ。今でも二日酔いで気持ち悪いんだって。見る、うちの伸びてる変態亭主。」
「ううん。辞めとく。それ見て誰が得するの。」
「フフフ。それもそうか・・・。」
それからしばらく萌と梓ちゃんは盛り上がっていた。僕は蚊帳の外に放り出されているようで、二人の会話が終わるのを待っていたのだが・・・。1時間経っても終わらない。そろそろ終わらないものかと思いながら、僕は時刻表のページをめくる。萌も梓ちゃんも美萌ちゃんも話し始めると長いこと話してるからなぁ・・・。家で女子会を開いているときも半日くらいは余裕で話倒しているし・・・。よくもまぁ話題が尽きないものだ。
「ハハハ・・・。ハァ・・・そろそろ行こうかな。」
ようやっと終わりか・・・。
「今日はどこまで行くの。」
「今日ねぇ、和歌山まで行くの。」
「和歌山かあ・・・。特急列車にでも乗るの。」
「和歌山くらいだったら特急には乗らないよ。「紀州路快速」って言う快速が大阪から出てるし・・・えっ・・・。」
「じゃあ、梓ちゃん元気で。お邪魔しました。」
僕はそう声をかけて、すぐに玄関へ向かった。
「ごめん、予定すっかりすっぽかしてた。」
萌はそう言うとすぐに荷物をまとめる。その音が僕の耳にも届いてくる。
「和歌山まで行くんでしょ。もうちょっとユックリしてけば。」
「梓ちゃん。梓ちゃんの思ったような行き方をしないって事すっかり忘れてたの。ナガシィたぶん相当イライラしてたと思うの。」
「ハハハ。萌ちゃん、今日はナガシィ君に夜付き合ってあげないといけないら。」
「そんな歳じゃないってば。」
(何時なったら終わるんだ・・・。)




