579列車 朝ラッシュ
2062年3月21日・火曜日(第14日目)天候:晴れ 西日本旅客鉄道東海道本線守山駅。
火曜日、朝の守山駅はサラリーマンと学生で埋め尽くされている。彼のほとんどは7時12分発の京都から快速姫路行きか、7時19分発の新快速姫路行きを待っているのだろう。ほとんどの人にとって7時16分発の「はるか」は通勤ラッシュにやってくる迷惑な特急列車でしかないだろう。特にケ・・・倹約家の多い関西人には相反する列車であることは想像に難くない。
「このうち何人「はるか」に乗るのかな・・・。」
萌が隣でつぶやく。
「ほとんど乗らないだろう。」
僕の予想は少しばかり外れた。指定席にも自由席にも少なからず乗車がある。しかし、グリーン車に入る人はいない。
守山7時16分→「はるか9号」→京都7時42分
守山→京都の乗車券使用開始
半室のグリーン車の座席はほとんど埋まっていない。5列あるグリーン席の3番C席。一人席で独立しているシートのみ埋まっている。僕らが持っているのは4番A席とB席。通路を挟んでいるとは言え、少しばかり気まずい空気になることだけは避けられた。
「フォホホホホホ・・・。キィィィィィィィン、コォォォォォ・・・。」
ブレーキが解除され、271系は揺れも無く守山駅のホームから離れる。かすかにモーター音がグリーン客室の方に届いてくる。
「ナガシィ・・・。あの人ってどこまで行くと思う。」
萌が聞いてきた。
「・・・あの人の荷物見てないけど。」
「ホログラム使ってるんじゃない。ホログラムなら薄っぺらい機械だし、かさばらないでしょ。」
「・・・。」
「ねぇ、どこだと思う。」
「新大阪・・・。天王寺じゃないでしょ。」
その人は草津で降りた。とんだ大富豪系な使い方であった。
守山→京都の乗車券使用終了
「はるか」を京都で降りるのも僕らだけだ。そして、京都からグリーン車に乗る人もいない。「はるか」はグリーン車をがらがらにして、京都駅を出発していく。
「はるか」の止まったホームの反対側には新快速の到着アナウンスが流れる。それを待つサラリーマンの群れは見ただけで乗る気力というものを減退させる。そして、そこには滋賀県方面からの乗客を満載にした新快速が入ってくる。京都駅で多少降りるとは言え、乗りたくはない・・・。
「6番乗り場から新快速神戸方面姫路行きが発車いたします。ご利用のお客様、すきました扉から分かれてご乗車ください。まもなくロープが下がります。」
「前4両乗降オーライ。」
「ロープが下がります。」
電子音声とともに警告音が流れ、上に跳ね上がっていたロープが下りてくる。乗る人が完全にシャットアウトされてから、車両のドアが閉まった。
「フォホホホホホホ・・・。」
乗客を満載にした新快速が発車する。人はドア付近ばかりに集中し、ドアとドアの間の通路に立ち客が目立たないところさえある。
「やっぱ、通勤特急って良いね。」
「本当だな・・・。あんなの乗りたくないわ。・・・どうする。「まいづる」まで1時間ぐらい時間あるけど。」
「朝ご飯食べようか。お蕎麦でも、うどんでも。」
朝ご飯を済ませて、「まいづる」が出発する30番線に行った。「はるか」の出発を待って、「きのさき4号」・「まいづる2号」が入る。この列車が僕たちの乗る折り返し列車「きのさき3号」・「まいづる1号」となる。
「最長往復切符をしてると特急列車を全区間乗り通しって言うのが少ないわよね。一番長く乗るので日豊本線ぐらい。」
という。
「まぁ、切符の制約上仕方ないわな。」
最長だからな。最長ルートを取らざるを得ない以上、乗ることが出来てルートに影響のない鉄道線は徹底的に乗車していくことになるからだ。
これから乗る「まいづる1号」は最長往復切符のルートをそのまま東舞鶴までたどることが出来る。筑豊炭田の地域で細々した乗り換えを強いられていた僕たちにとってはありがたい列車だ。
京都8時36分→「まいづる1号」→東舞鶴10時11分
最長往復切符往路京都駅から使用再開
「フォホホホホホ・・・。」
7両編成の特急列車は京都市内へと繰り出す。ユックリとしたスピードでJR七条駅と丹波口駅を通過し、二条駅に停車。二条駅で客を拾い、嵯峨嵐山駅を通過するとグイグイとスピードを上げる。GPSのスピードメーターアプリは103キロを記録する。
園部駅を発車すると、風景は一気に山がちになる。100キロ以上で推移していたスピードは80キロ前後を記録するようになる。単線のため、対向列車を待ち合わせるために停車することさえある。
それらをやり過ごして、綾部駅に停まる。
綾部駅では「きのさき号」と「まいづる号」は切り離される。ここまで7両編成で走ってきた特急列車「まいづる」は3両編成になった。
「慣れないなぁ・・・。」
座席は進行方向と逆向きになっている。僕たちの後ろに乗客がいなければ、席を逆転させたいのだが・・・。ちょうど後ろには二条駅から乗ってきた男女が座っている。
(あの人達が席を逆に向けたら、こっちも座席反転させるか・・・。)
と思っていると、男女は席を反転させた。座っている方向とは反対側に進んでいくのになれなかったんだろうなぁ・・・。
「どうする。」
「もう良いよ。東舞鶴まであと少しだし。」
最長往復切符往路東舞鶴駅まで使用




