572列車 初見殺し千光寺
2062年3月16日・木曜日(第9日目)天候:晴れ 西日本旅客鉄道呉線呉駅。
戦艦大和に熱狂しても、萌にその熱が伝わらないのは半分分かっていたことかもしれない。呉線の呉駅に戻り、先へ進む。
呉13時04分→「快速安芸路ライナー」→広13時14分
広13時16分→三原14時43分
呉線は軍港の街呉につながる鉄道線である。列車は227計2両編成か223系5600番台2両編成が行き交うだけの路線であるが、その列車が止まるにはあまりにもホームが長い。呉線は軍港呉に向かうための最重要路線となっていた。長いホームに長い有効長を持つ駅構内はこの名残である。
「フュー。」
ブレーキを解除して、223系5600番台がホームを離れていく。
右手には瀬戸内海が広がる。そして行く手には制限25の表示が見える。それに合わせて、ブレーキを操作し、ゆっくりと海岸線を抜けていく。海沿いを走る鉄道は景色の良いところが多い。ここをゆっくりと走ってくれるのは西日本旅客鉄道からのプレゼントであろうか。
「遅い・・・。」
だが、遅すぎるのは考え物だ。
三原駅に到着すると山陽本線に乗り換える。時間が少なく、呉線の到着したホームから急いで乗り換える。短い距離だが、息が上がる。14時49分、ホームには227系の3両編成が滑り込んできた。行き先は三原駅の隣糸崎駅だ。
三原14時50分→糸崎14時54分
糸崎駅でまた列車を乗り換える。対岸には223系5600番台6両編成が止まっている。ドアは開いていないが、赤い車側灯が点いており、ドアが開いていることを示している。
糸崎15時06分→尾道15時14分
最長往復切符往路尾道駅で途中下車
尾道駅で列車を降り、千光寺を目指す。
「ハァ・・・。ハァ・・・。」
道が分岐しているところにさしかかる。千光寺と書かれた看板は右の方にあるのだが・・・。どっちだっけ。
「えーっと。ここは右だったかな。」
「そっちじゃないって。こっちだよ。」
萌がそう言い左を指さす。
「いや、右でしょ。」
「播州さんが初見殺しだって言ってたでしょ。正しいのはこっち。」
「ハァ・・・。そうだったっけ。」
萌の言っていたことは正しかった。頂上に到着して、瀬戸内海を眺めてみる。山陽を照らす太陽が海を青色に染める。「ガタン、ゴトン」と音がする。下を眺めるとステンレスの車両が走っていく。223系かなぁ・・・。
「綺麗なところねぇ。」
「綺麗なところだなぁ・・・。」
「こういう風景って良いよね。」
「本当はあのクレーンとかはない方が良いって言うじゃ・・・。」
そこまで言いかけたとき、萌が口をふさいでくる。
「元も子もないから辞めなさい。」
「はいはい。」
日が傾き、千光寺から眺める風景は少しだけ赤くなってきただろうか。そう言う頃に写真を撮り、僕たちは山を下りた。
「フュー。キィィィィィィィ、フュゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・ガタン・・ゴトン。」
「・・・。」
尾道駅に戻ってくると丁度列車が出発していった。電光掲示にでる次の列車は17時06分・・・。今から10分ぐらい後か。
「行っちゃったねぇ。そんなにゆっくり歩いてたつもりじゃなかったんだけど。」
「まだ山陽本線だから良いじゃん。芸備線とか、福塩線とかだったら意地でも間に合わせないと大変なことになるからなぁ・・・。」
「そうねぇ・・・。10分ぐらい経ったら次がやってくるんだから恵まれてるわよねぇ。」
恵まれているかぁ・・・。木次線とか列車が少ないところは1日三往復だからな・・・。そもそも比べるものが違いすぎるかぁ・・・。
尾道17時06分→倉敷18時17分
山陽本線を東に走る。福山駅が近づいてくると山陽本線は新幹線の下に入る。福山城にでも行ってみたいと思っていたが、千光寺で歩き疲れたので、辞めることにする。往路でいけなくても、復路でいける。最長往復切符はこういうことが出来るのが良い。
新倉敷の一つ手前には金光という駅がある。ここは金光教の総本山が置かれている。奈良県天理と同じ宗教都市である。
「金光教が「お取り次ぎ」をしているところだったわよね。」
「そうだったな・・・。「お取り次ぎ」ってどんな感じなのかなぁ。興味ない。」
僕は萌に聞いてみる。
「そりゃね。お金かからないでやってくれるで合ってたっけ。もしそうなら「ナガシィよりも良い旦那さんはいますか」って聞いてみようかしら。」
「えっ。」
そりゃ困る。
「フフフ。嘘よ。もう、良い旦那さんなんて見つかりっこないから。」
「ほっ・・・。」
最長往復切符往路倉敷駅で途中下車
倉敷は美観地区が有名であるが、そこに行く気も起きない。そのままホテルへ直行した。




