545列車 キハ120系が走る
2062年3月4日・土曜日(第-3日目)天候:曇り 西日本旅客鉄道芸備線三次駅。
「ファアァァァ・・・。」
「アーア・・・。コォフォフォフォフォフォフォ・・・。」
「その欠伸はどうにかならない。」
「・・・ダメ・・・。」
「ダメじゃないけど、もうちょっと普通にしてよ。欠伸くらい。」
時間は6時40分を過ぎたぐらいである。三次駅の構内には銀色のステンレス車体のディーゼルカーがたくさん止まっている。大型のものは全て芸備線の三次~広島間を走る列車に充当されるキハ129系というディーゼルカーだ。顔は関西でも見慣れた225系100番台と同じ顔。HIDランプのフォグライトとヘッドライトを付け、前面には連結面への転落防止を図った転落防止幌まで付いている。
「それにしても寒いねぇ・・・。」
「寒いなぁ・・・。」
スーツでいる為耐寒耐雪装備は万全とは言いがたい。寒さで身が震える。
「早いところ乗っちゃおうか。」
僕らはホームにぽつんと止まっている小さいディーゼルカーに乗り込む。ホームと車体の位置が会っていない為、段差を「よっこらせ」と乗り越える必要がある。
「ピッ、ピッ、ピッ・・・。」
乗客を追い払いチャイムとか言われているが、僕たちは追い払われない。
三次6時55分→備後落合8時16分
三次→塩町の乗車券使用開始および終了
若狭小浜→嬉野温泉の乗車券塩町駅より使用再開
「ご乗車ありがとうございます。この列車は普通列車備後落合行きです。」
キハ129系を横目にキハ120系は走り出す。車内にはほんの数人が乗っているだけである。この列車は備後落合に行く始発列車ではあるものの、備後落合から先に行くにはとても不便な列車でもある。それもあるのだろうか・・・。
備後庄原に到着すると車内にいた僕たち以外の旅客はほとんどいなくなってしまった。
「僕らだけになっちゃったな・・・。」
「そうだね。」
昨日乗った福塩線と同じようにキハ120系はゆっくりと川沿いを走る。前面展望を見ていると線路脇に25と書かれた看板がある。それに合わせるようにキハ120系はブレーキをかけ、スピードが時速25キロにまで落ちると運転士はブレーキを緩めた。西日本旅客鉄道おなじみ「必殺徐行」というのである。
1時間20分揺られ、山の開けた場所に出る。あたりは雪で閉ざされている。その中に屋根の付いたホームがある。ここがこの列車の終点備後落合駅である。
若狭小浜→嬉野温泉の乗車券備後落合で途中下車
「はい、ありがとうございます。」
運転士に乗車券を見せる。
「木次線ご利用ですね。木次線はタクシー代行となります。列車の出発時間が近づきますと駅前にタクシーが乗り付けますので、そちらをご利用ください。」
「あっ、そうなの・・・。」
忘れてた・・・。
「ナガシィ。」
「まぁ、そういうこともあるよ。」
とは言っても時間は1時間ほどある。その間に備後落合駅を見てみよう。
備後落合駅、今は小さいディーゼルカー1両が止まっているだけだが、その割にはかなり大きいホームを持っている。これは芸備線かつての栄光の跡だ。昔は木次線との乗換駅で急行「千鳥」・急行「たいしゃく」も停まったほどの駅だったらしい。駅員も配置され、数多くの係員が常駐出来る宿泊施設まであったらしい。いま、それを思わせるのは無駄に長いホームとやけに広い駅構内だけである。
「スキー場も近くにあったのね。」
萌が写真を指さす。
「播州さんが言ってたね。昔は駅員同士でスキーに行ってたって。」
「ああ。そういえば。」
「こういう写真を見てると、昔は栄えてたんだなって思うね。今は駅前にも何にもないけど・・・。」
「そうね・・・。」
9時前、1台のタクシーが備後落合駅の駅前にやってくる。だが、そのタクシーから降りてくる人はいない。
「アレかな。」
「アレかもね。」
タクシーから僕らと同じ年くらいの男性運転手が降り、僕らの方へと近づいてくる。
「木次線使うお客さんですか。」
ぶっきらぼうに聞いてきた。僕がそれに「そうですよ。僕と妻の二人・・・。」と答えるとちょっとビックリしたようだった。
「おっ・・・。途中の駅で降りられたりしますか。」
「いえ、出雲横田まで降りません。」
「そうですか。じゃ、電車の通ってる出雲横田まで送りますんで、乗ってください。荷物は後ろのトランクに入れてください。列車代行なんで各駅でいきますね。」
(入れてくれるわけじゃないんだな・・・。)
「あっ、お客さん木次線の切符持ってます。」
「ああ、はい。・・・これなんですけど・・・。」
ここに持ってきてる運転手さんはちゃんと切符が読めるのだろうけど、僕らの持っている切符を見せるには気が引ける。
「・・・なんていう切符ですか・・・これは・・・。」
そんなことを言ってはいたが、「木次線」という経由路線の表示が見えたのか、
「はい、確かに。」
と言った。
一口メモ
木次線
山陰本線宍道駅~芸備線備後落合駅を結ぶ全長81.9キロの地方交通線。出雲坂根駅の三段スイッチバックは有名である。冬季には出雲横田~備後落合間の列車は全面運休し、その間はタクシーによる代行輸送が実施される。日本屈指の閑散路線の一つで有り、区間廃止も囁かれる。
西日本旅客鉄道キハ129系
西日本旅客鉄道の「末永く古いものを大雪に使いましょう計画」に踏ん切りを付けた液体式ディーゼルカー。車体の基本設計は227系に準じ、先頭車の転落防止幌が気動車にも付けられた初の事例を生み出した。乗降用扉は車両両端に両開きドアを装備し、車両中央にはいつでも扉が付けられるように準備工事がなされている。
トイレ無しキハ128形、キハ128形とタッグを組むトイレ有りキハ129形1000番台、両運転台付きキハ129形0番台からなる。キハ129形0番台と1000番台はトイレの位置が統一されており、コストダウンがはかられている。
急行「千鳥」「たいしゃく」
「千鳥」、「たいしゃく」は芸備線に設定された急行列車。「千鳥」は備後落合駅で「たいしゃく」と別れ、木次線に入線し、米子へ。「たいしゃく」はそのまま新見方面へ走って行った。どちらも利用者の低下で廃止に至る。




