9512列車 無茶苦茶なことであった人
その声に輝が反応する。
「はい。そうですが。」
「お久しぶりです。」
そういい男の人が頭を下げた。見た目は私達と同じぐらいの人だ。
「ああ。西片さん。」
それからというもの、二人は電車の話で盛り上がる。欲もまぁ、鉄道のことで何分も話せるものである。15分くらいの間立ち話をして、「西片」という人と別れた。
「あの人は。」
と聞いてみる。
「ああ。昔九州に行ったときに一緒の列車に乗ってたから。それで親しくなったんだ。」
「九州行くときに同じ列車に乗ってたって・・・。」
相変わらず、言っていることがよく分からない。
「ああ、九州行くときに相生から先ほとんど同じ列車に乗ることになるんだよね。途中下車とかしない限りね。それであの人と岡山から小倉までずっと同じ行程だったんだ。」
「岡山から小倉・・・。」
はっ・・・。岡山から小倉って結構距離有ると思うんだけど。だいたい新幹線でも結構時間がかかる気がするんだけど。そして、輝がここで言っていることは在来線のことだろう。一体何時間かかるのだろうか。
「へぇ、そうなんだ。ていうか、シンクンどんだけ無茶苦茶な事してるのよ。」
「そこまで無茶苦茶じゃないよ。僕、もっと無茶苦茶な事してるし。四国言った時なんて補導されかけたし。」
「四国で一体何したの。」
「えっ、野宿しようとしただけだけど。そしたら、警察の人に見つかってね。その後交番に置いてくれたんだっけ。」
「それ補導されてるから。補導されかけたじゃないから。」
私はそう言ったけど、輝君の無着ちゃっぷりはどうも想像のはるか上を行っているらしい。私も輝と付き合うようになってから、思い出話をよく聞いている。その中には無茶苦茶なことをしていると思うことが多かった。だが、ここまで無茶苦茶だとも思うこともなかった。野宿しようとしたって。それをしたとき輝は一体何歳だったんだろう。
「まぁ、それはまだ無茶苦茶じゃないからな。自分でも無茶苦茶な事してるなって思ったのは中2の夏の北海道旅行だし。」
「今度は何したの。」
「何もしてないよ。ただ20日間ずっと旅行してただけだよ。」
「20日・・・。」
「宿題はかどって良かったけどね。たださ、読書感想文だけはちょっと困ったんだよねぇ。根室から郵便で送ったから。」
根室から読書感想文送るって。発想そのものがどこかぶっ飛んでいる。恐らく、誰もがやったであろう読書感想文を郵便で発送して提出するなんて事をやった人は有史以来輝しかいないだろうなぁ・・・。
新青森からは新幹線に乗る。こんな北の方の新幹線に乗るのも初めてである。ただ・・・。
「次に乗る列車は「はつかり24号」東京行き。これに盛岡まで乗って、その後は東北本線で小牛田まで行くよ。」
そう言い、輝は切符を渡してくる。
「自由席。」
「「はつかり24号」には自由席ないから、空いてる指定席に座るんだよ。」
「自由席ないのに、指定席座っていいの。」
「いいよ。違法じゃないし。もちろん、僕らが座っている席に指定券を持っている人が八戸から乗ってきたら、僕らは当然退かなきゃいけないけどね。」
「・・・へぇ・・・。」
確かに、次に乗る新幹線の隣には「全車指定席」の表示が出ている。本来なら乗れないのだが、盛岡以北の区間だけで新幹線を使う場合に限って指定席の空いているところに座れるというものらしい。もちろん、指定席料金よりも安い金額で乗れるという。ただ、東日本旅客鉄道はこれの使用を推奨しているわけではないため、知っている人は少ないらしい。
「・・・こういうことは知らないと出来ないわねぇ・・・。」
新幹線で盛岡まで行き、その先はひたすら在来線で南下する。そして、2日目は古川で終了した。




