9510列車 一安心
「おっ、ラッキー。」
輝は階段を上がると声を上げた。ホームにいたのはさっき私が見た綺麗な青色の車両だ。これが今から乗る秋田行きの特急電車なのだ。
「E653系の瑠璃色「いなほ」。これ乗ってみたかったんだよなぁ・・・。」
そう言うと輝は急いでスマホを取り出して、パシャリと写真を撮る。輝の撮影が落ち着いてから、私達は特急電車に乗り込んだ。
15時01分。瑠璃色の「いなほ」は滑り出し、新潟駅を後にする。そこから「いなほ」は西に傾き始めた夏の日差しに照らされながら一路秋田を目指していく。
「本日も、東日本旅客鉄道をご利用いただきまして、ありがとうございます。特急「いなほ号」秋田行きです。列車は7両編成で運行しております。グリーン車は1号車、自由席は5号車から7号車です。」
「本当は1号車のグリーン車に乗りたいんだよねぇ。」
輝がポツリと言う。
「グリーン車なんて高いじゃない。」
私が言う。
「うん、高いんだけどさ。「いなほ」のグリーン車って興味あったんだよね。シートピッチが一番広いって有名だから。」
「へぇ、そうなの。」
「うん。そうなの。」
「・・・。」
「でもね、グリーン車は別のところで乗るから。だから、「いなほ」のグリーンは我慢するよ。」
「あっ、グリーン車は乗るんだ。」
「うん、乗るよ。グリーン車でも格の違うグリーン車に乗るから。」
格の違うグリーン車か・・・。鉄道ファンの輝が言うんだから、どんな格の違いを見せてくれるのだろうか。でも、グリーン車以上にはグランクラスって言う北陸新幹線とかに連結されているのもあったよねぇ・・・。
西日が刺さるようになってくると私はカーテンを閉めた。そうするとかが焼きがちょっと寂しそうに勉強に戻ったのはなんとも印象深かった。
15時47分。村上に停車。最初の行程ではここで「いなほ7号」を降りて、16時13分発の普通列車で秋田を目指すことになっていた。だが、今回はこのまま特急電車で秋田を目指せる。そう思うと自然とまぶたが重くなった。
「・・・ひ、あさひ。」
ふと体を揺すられ目が覚める。
「秋田だよ。」
そう言い、輝は私の荷物を荷物棚から降ろしてくれた。
「えっ、もう秋田。」
「もう秋田だよ。」
確かに電車の中にはもう私達しかいない。入れ替わりに清掃の人たちが車内に入ってきていて、隣の号車ではゴミ袋とかを変え始めている。
「行こう。」
輝に促され、瑠璃色の電車から降りる。時間は18時50分。日はまだ高い。1日の移動はここで終了だが、12時間以上電車の中で過ごしたのは大回り乗車以来である。
「ハァ、疲れた・・・。」
「疲れたって、まだ1日目だよ。」
「シンクンはへっちゃらそうね。」
「そりゃね。途中特急使ったりしたし、12時間41分ぐらいまだまだって感じだよ。」
そう言える輝はすごすぎる。この人は私とは別の次元に到達しているんだな・・・。
ネットカフェを探して、今日はそこで夜を越すこととなった。明日の出発は8時20分。今日よりはゆっくり出来ることに安堵しながら、私は眠りに就いた。




