9507列車 始発列車
7月26日5時55分。私達は学生服に身を包んで米原方面行きのホームに立っていた。普段、この制服を着ている時は大阪方面にしか行ったことが無いのだが・・・初めてこの服で学校以外へ行くことになる。
「今日から修行が始まるのね。」
「まぁ、修行だね。今日は頑張って秋田まで行こうか。」
と言う。少し前に行程と日程は聞かされたが、正気の沙汰じゃないと思う。
1日目:栗東→米原→敦賀→金沢→上越妙高→柏崎→吉田→新潟→村上→秋田
この距離を全部在来線で移動しようというのだから、本当に狂気としか言い様がない。しかも、最初に聞いた時村上と言うところから秋田までの移動は新潟駅で秋田行きの特急列車に乗ったにもかかわらず降りてしまうと言うことを聞かされた。お金がかからないのは分かるが秋田行きの特急から降りたにもかかわらず、目的地が秋田というのは理解出来なかった。
ちらりと輝の着る学生服を見る。所々シワが寄っている。それに、かなり着古している感じがする。
「シンクン。最近それで旅とかした。」
「してないよ。この時のためにお金貯めてたからね。今回は出費がすごいことになるけど、大丈夫だよ。」
「親から借金してまですることじゃないと思うんだけど。」
「就職祝いだって。旅終わったらバイトするし、仕事始めたら本格的に返すから問題ないよ。」
「・・・。」
就職祝いかぁ・・・。でも、それで許してくれるって輝の親は厳しいのか厳しくないのか。
「まもなく1番乗り場に普通米原行きが到着いたします。」
いつものアナウンスがホームに流れ、大阪方面からは黄色と白のライトを付けて電車が入ってくる。
「225系だね。」
輝は即答する。ライトだけで分かるのか。すごいなぁ・・・。
電車の中はすいていた。ちょうど空いていた席に二人で腰掛ける。あたりは明るくなっているが、まだ寝ている印象だ。そんな景色が後ろに過ぎ去っていく。
「ハァ・・・。」
眠い・・・。思えば何時に起きたんだっけ。輝は早速勉強道具を広げて勉強し始める。こんな朝早くからよく出来るなぁ・・・。こういうこと多くこなしているからか・・・。
米原に6時38分に到着し、6時50分の敦賀行きに乗り換え。待っていたのは2両編成の電車だった。だが、たくさんの乗客がすでに乗っており、私達が乗っても座るところはどこにもなかった。仕方なく立っていたが、長浜、木ノ本と乗客はどんどん減り、近江塩津でついに数えられる程度にまで減った。
「敦賀からは新幹線に乗って上越妙高って言うところまで行くんだけど、乗る「つるぎ」が金沢止まりなの。」
「つまり、金沢で乗り換えが必要って事ね。」
「そういうこと。」
電車はトンネルへと入る。長いトンネルを抜け、山間の駅に停まった。駅を見ると狭いホームと屋根が付いているだけだ。近くに家があるためまだこの駅を利用する人はいるのだろう。
駅を出発して、山の中へと入り、山を抜けた時には敦賀の町並みが見える。
「まもなく敦賀、敦賀です。なお、車内保温のためドアは自動では開きません。ドア横のボタンを押してお降りください。」
(慣れない・・・。)
最近知ったものだが、やはり慣れない。ドアとは勝手に開くものじゃないんだ。
敦賀に7時36分着。乗る列車は7時46分発の「つるぎ810号」らしい。




