493列車 インフラか、営利か
「それでは、これにて面接を終わります。」
亜美の顔から真剣さが消える。それにほっと息をつきそうになるが、部屋を出るまでは面接の時間だと思いなおす。勝って兜の尾を閉めよ。実際の面接で買っているかどうかはわからないが、この言葉のように最後の詰めを誤らないようにしないといけない。
立ちあがって、椅子の左隣に立ち、
「ありがとうございました。」
と言い、退出の動作へと入る。退出すると一気に気が抜けた。
「ふぅ・・・。」
「光ちゃん、入ってきていいわよ。」
そういい、ウチはドアを開けた。
「亜美の面接は怖いなぁ。本当に・・・。」
「圧迫面接してるんだから、怖いのは当たり前でしょ。面接は数こなすしかないのよ。」
「・・・分かってるよ・・・。」
「でも、光ちゃんは圧迫面接するほうが向いてるかもね。光ちゃんの顔すごく怖くなるから。」
「ウチってそんなに顔怖くなる。」
「ええ。あれは圧迫じゃなくて恐怖面接ね。」
亜美は笑いながら言ったが、亜美の言う通り恐怖面接んなんだろうなぁ・・・。最初にこういう練習をしたときはウチにとっても印象的だった。まさか、面接練習終わって、涙目になって戻ってくるとは思っていなかった。ウチって怒った時も怖かったのか・・・。
「今でも光ちゃんの顔は怖いって思うことはあるわ。でも、面接官にあなた以上に怖い人もいないだろうから、本番受けるときは相当安心できるようになっているでしょうね。」
それは褒めてるのかな・・・。
「さて・・・、今度は光ちゃんが面接官してくれるかな。」
そういうと亜美は立ち上がって、部屋の外に出ようとする。
「亜美。さっき、天災とかで新幹線が動かなくなった時あなたならどうするって聞いたよねぇ。」
「ええ。」
「あの答えって・・・。」
「光ちゃんが答えた答えは不適切。私にはそれしか言えないわ。」
ウチは上の問いに「他の交通機関を提案する」といった。確かに利益を追求する企業からしてみれば、敵にえさを与えているような行為であると思う。しかし、それは今だから考えられることでもある。冷静であればもっとましな答えは出たかもしれない。
「・・・そうねぇ、私はとにかく新幹線を使ってもらえるようにするわ。例えば「列車ホテル」を開設して、翌朝早く目的地に向かえるように切符を変更したりする、とかね。もちろん、これが正解とは言わないわ。でも、明らかに正解と言えるのは利益になること。民間企業なのだから、そこは決まっているわ。」
「・・・。」
「もちろん、光ちゃんの答えも間違いじゃない。でもそれは利用者の利便を考えたこと。企業の利益を考えてないともいえるのよ。」
「でも、鉄道はインフラでしょ。」
「そんな時代は半世紀近く前に終わった。」
亜美はそう言ってから、
「国鉄なら、日本に張り巡らされている鉄道はインフラになる。でも、民間企業にとって日本に張り巡らされている鉄道は利益を出すための根。インフラではあるけど、突き詰めるとインフラじゃない。それが今の日本の鉄道なの。」
亜美の言いたいことは理解できる。
「国鉄解体のために当時の中曽根首相が言ったわ。「ローカル線は廃止にならない」って。でも、現実は「数多くのローカル線が廃線になった」。これが示していることは鉄道がインフラでなくなった証拠なのよ。廃線になったローカル線はすべて「腐った根」だったの。」
「・・・。」
「納得できようが、できまいが、日本の鉄道事情はそれが現実なの。まぁ、知っておいて損はないし、これから先未来に起こる鉄道の悲報には全てにおいて当てはまることだから。信者じゃない鉄道ファンになるいい機会よ。」
そういうと亜美はドアを開け、
「じゃあ、面接官お願いね。」
と言った。
ウチはさっき亜美が腰かけていた椅子に座り、
「いつでもいいよ。」
と声をかけた。




