489列車 電車でS
12月29日。ウチは守山駅に来た。時間は8時を少し過ぎだ。今日は帰ってきた日に会った輝と話をつめ、大回り乗車兼勉強会をするという話になっていた。そのために今うちは守山駅に来ているのだ。
「永島君。」
その声がする方向を見て、ウチはビックリした。
「えっ、モズ。」
輝はウチの気持ちを察したようで、
「付いてくって聞かなくて。僕らでもキツい事するよとは言ったんだけどね。」
ウチにだけ聞こえる小さい声で輝が言う。
「だったら付いてこないようにって言って聞かせといてよ。」
「それが・・・。僕がよくやってる大回り勉強がどんなものか興味あるみたいで。電車に乗ってただ勉強するだけなんだけど・・・。それに永島君も一緒で普段みたいなデート・・・あっ。」
「いいよ。付き合ってるんだから、デートでしょ。むしろ、この状況じゃウチのほうが邪魔なんじゃ。」
「全部折り込み済みで、今日は中百舌鳥さん付いてきた感じだから、邪魔とは思わなくてもいいよ。」
「いや、でも・・・。」
「輝君、光君。いつまで二人で話してるのかな。今日は皆で勉強会するって言うから付いてきたんだから。」
「ああ。うん。ごめんなさい。とにかく、僕らはホームに行こうか。」
そう言うと、輝はウチにだけ聞こえる声で、
「今日は大回り勉強会じゃなくて、18切符で同じような事する。そうすれば、大回りじゃ出来ない折り返しと途中下車が出来るようになるし。遅れたら、しっかり巻き込まれるけど。」
「モズも一緒じゃ仕方ないな。オッケイ。」
「ところで、今18切符持ってないよね。」
「持ってないな。家においてきちゃってる。」
「だよね。18切符は僕のを使いきることにするよ。」
ウチらは窓口で18切符を見せ、3つの判子を押して貰った。2日(2人)、3日(3人)、4日(4人)の所に年月日と守山駅の文字が入る。
「今日はどっちに行くの。」
と言うモズの声。
「そうだな・・・。」
輝はそう言いながら、近くのモニターを見た。モニターにはアーバンネットワークと新幹線の遅延状況が出ている。それには東海道・山陽新幹線が関ヶ原の雪害の影響で遅延、湖西線が強風の影響で近江今津~近江塩津間で徐行運転実施により遅延と出ている。
「・・・湖西線もしかしたら止まるかもなぁ・・・。」
輝が言う。その意味がウチには分かる。強風に強くなったとはいえ、規制がかかりやすい路線であることは今でも変わらない。北陸新幹線が新大阪まで延伸する前はよく「サンダーバード」が米原経由で運行されていたからなぁ。
「一旦米原に行ってから新快速か普通で加古川か姫路まで乗り通そうか。」
と言った。その時点でも図の顔が青くなり始める。
「えっ、米原から姫路まで。何時間かかるの。」
「勉強してたら3時間くらいあっという間だよ。」
なぜかそれに説得力がある。何回もやっているんだろうなぁ。
僕らは階段を降り、8時11分発の新快速米原行きに乗り米原に行った。米原からは8時48分発の新快速を待って姫路まで行くことにする。ボックス上になっている転換クロスシートに3人で腰掛け、勉強道具を広げる。
「フォホホホホホ・・・。キィィィィン、コォォォォォォン。」
こういう感じで225系のVVVFを聞くことはなかったなぁ・・・。米原を出発すると225系は本線に入るためポイントを超える。そのたびに車体がゆらゆらと揺れる。ウチの前に座っている輝を見るとバインダーを足の上に置き、ノートを広げている。揺れる車内の中で器用に字を書いている。
「輝君って器用に字書くわね。」
モズが言う。
「そうかなぁ・・・。でも、電車の中で字を書くことそのものに慣れたよ。もう、9年くらい同じような事してるからね。」
「9年てことは・・・小1の時からこういう事してたわけ。」
「うん、頑張って勉強しないと親がいろんな事許してくれないなぁと思ったから。」
そういう話を聞くと努力の度合いをはかれる。
「まもなく彦根、彦根。降り口は左側です。彦根駅からドアは自動で開きます。ドアから手を離してお待ちください。彦根を出ますと次は能登川に止まります。」
到着直前アナウンスが流れる。このアナウンスとしたから響くモーター音を聞きながら、姫路に着いたのは11時18分だった。
「本当に姫路まで来ちゃった・・・。」
モズはあっけにとられたような顔をしている。とても2時間以上同じ列車を乗り通したとは思っていないみたいだ。
「輝君ってこんな遠くまで来たことあるの。」
「何回もあるよ。今年はこれで10回目だね。」
「・・・10回・・・。姫路に10回も通うって・・・。学校行くよりも遠いじゃん。」
「学校行くよりは遠いけど、通学してる時より電車乗ってる時間は有意義に使ってるよ。」
だろうな・・・。さて、この先はどうしようか。本来はこういうこと考えてなかっただろうし、この先も無計画さは変わらないだろう。
「そんなことよりまずお昼にしよう。」
そう言うと輝は駅そば屋を指さした。
ウチらは食券を買い、駅そばを食べる。すぐに出てきた駅そばにウチとモズは輝の変な行動を目の当たりにすることになる。
「えっ、お冷や・・・。」
輝は湯気のたつ駅そばにお冷や一杯を投入する。
「あっ、これ癖なんだ。気にしないで。」
「気にしないでって、気になるに決まってるでしょ。熱々のうどんにお冷や投入ってどうかしてるよ。」
「いやぁ・・・。乗り鉄してるとどうしても短い時間でお昼を済ませる必要に迫られたりする時があって。それで熱々のものをいかに早食いするかっていうことで編みだしたものなんだけど、それをやってからお冷や一杯なら味とかあんまり変わんないし、汁を気にしなければ案外行けると思ってそれでうどん、ラーメン、蕎麦食べる時についやっちゃうんだ。」
「もしかして、家でラーメン食べる時も。」
「うん、やっちゃう。ていうかいつの間にか熱々の麺類食べれなくなっちゃったんだよね。」
「そりゃ、熱々の麺類食べれなくなるだろうなぁ。」
「へぇ。輝君と王○とか行ったこと無いから、そういうことするなんて初めて知ったなぁ。」
「・・・ちょっと恥ずかしいなぁ・・・。でも、おかげで並盛りなら3分、大盛りでも5分あれば食べきれるから、やめられないんだよなぁ・・・。」
3分あればか・・・。ウルト○マンか。
昼食を済ませてから、改札を出た。3人背を伸ばし、気分転換をする。気分転換が終わると改札の中に入った。本来なら、この先に行きたいところなのだが、モズが一緒ではあまり無理は出来ない。このまま新快速で来た道を戻ろうか・・・。
12時12分発の新快速湖西線経由敦賀行きに乗り、途中大阪で下車して遊んでから守山まで帰った。守山に戻ってきた時、モズの顔が今まで見てきた以上に青かったのには少々笑ったが・・・。修行にも近い乗り鉄の片鱗を見せつけられた1日だっただろうなぁ・・・。




