488列車 平和なお昼ご飯
「本当は梓の作ったお菓子を食べてお話ししたい所なんだけどねぇ・・・。」
私はそう言いながら、机の反対に座っている梓に言う。
「ハハハ。おいしいって言ってくれるのはありがたいわねぇ。」
「あら、おいしいって言ってくれるのが大希君じゃなくてちょっとがっかりしてるんじゃないの。」
そう意地悪なことを聞いてみると、
「あのねぇ・・・。確かに、大希においしいって言ってもらえるのが一番嬉しいけど、自分で作ったものがおいしいって言ってくれるのは誰であっても嬉しいものよ。がっかりなんてしないわ。」
と返事。そのあと私の後ろの様子をうかがってから、
「それにしても、光君ちょっと見ない間にたくましくなったわねぇ。」
と言った。光は今智萌と一緒にお昼ご飯を作っている。前回やらせた時は結果としてマズイものを作ってしまったが、今回は光もいることだし大丈夫だろう。
「そうねぇ・・・。顔つきが変わったというか、何というか。何、もしかして梓ってそう言うの好きだっけ。」
「コラ、私はそういうのじゃないっていうの。勝手にそういう人にしないでってばってそれはいいのよ、それは。・・・私達が知らないだけで、案外子供の成長って早いのかもしれないわね。陽君もそのうち可愛い子でも連れてきたりしてね。ハハハ。」
可愛い子かぁ・・・。光もそのうち帰省と称して可愛い子を連れてくるのだろうか。それはそれで楽しみ・・・。
「梓は陽斗君のそういう事情何か知ってるの。」
「・・・なんとなくかな。女の勘ってやつ。」
「女の勘かぁ・・・。」
「光、お願いだからその顔やめて。」
智萌の悲痛な叫びが後ろから聞こえてくる。
「私達のお昼は大丈夫なのかなぁ・・・。」
「大丈夫、大丈夫。智萌一人じゃ心配だけど、光もいるから。」
「前に魔法の料理生産されたって言ってたわねぇ・・・。私に言ってくれたら、0からレクチャーしてあげるわよ。もちろん、お給料ぐらいは貰おうかしら。」
「えっ、そこは無償じゃないの。」
「ハハハ。冗談よ。普段おちょくられるから少し意地悪してみたくなっただけよ。」
「意地悪しないでよ。」
「だったら、その前の非礼を謝ってもらおうかしら。」
お母さんと梓お母さんの会話が聞こえてくる。が、そっちをかまっている場合でもなさそうだなぁ。お母さん、梓お母さんと話しているのはいいんだけど、こっちも大変だよ。
「えっと、ここで砂糖を入れればいいのね。」
智萌はそう言うと一つの容器を手に持ち、
「ちょっと待って・・・。それ砂糖じゃなくて、塩。」
「えっ・・・。塩。」
「智萌・・・。お前の顔には目がちゃんと付いてるのか。塩の入ってる容器と砂糖の入ってる容器は形状から全然違うだろうが。それも見分け付かないのか。おう、コラ。」
「お母さん、光がすっごい怖い顔してくる。怖いから変わって。」
「そもそも、お料理教えてって言ってきたのは智萌でしょ。ウチが怖い顔してるとかそう言うの関係ないでしょ。」
数分後・・・。
少しは形になってきたかなぁ。
「あのねぇ。智萌。何でウチが作ってるのかなぁ・・・。」
「光が「見てられない」って言って変わったんじゃない。」
「・・・見てられないって言うのはそうだねぇ・・・。そりゃあね、塩と砂糖を間違えるようなお姉ちゃんだもんなぁ。ウチはさぁ、あんまり料理得意じゃないから調味料どのくらい入れればいいとかそういうことはわかんないけど、入れるもの間違えなければ目分量でも問題ない範囲ってあると思うんだよね。智萌の場合はそれ以前の問題だからなぁ・・・。梓お母さんに全部レクチャーして貰ったら。そうしたら少しはお察しの腕も上がると思うけど。」
「それは試したよ。でも、梓お母さん教えるのは得意じゃないって言ってて、断られてるんだ。」
(得意じゃないか・・・。)
意外だなぁ。梓お母さんって料理に関する知識の多さはすごいと思ったんだけど・・・。
「そりゃ、料理は知識と愛情で作ってるような人だからねぇ、梓お母さんは。」
「ちょっと・・・。まぁ、否定はしないけど。」
いつの間にか二人がそばに来ていた。
「私達も何か手伝うことあるかしら。」
お母さんが言う。
「大丈夫だよ。お母さん。後はウチがどうにかするから。」
「期待してるわねぇ。」
「光君の作るお料理期待しちゃうなぁって・・・智萌ちゃん。」
「お前は逃げるな。」
「チョッ。怖い。ホント怖いから・・・。ねぇ、お母さん。光のこれは誰に似たの。」
「お父さんの隠れた顔・・・かな。」
今日は平和なお昼ご飯の時間が訪れそうです。




