483列車 気になる暮らしの実態
私の部屋には瑞西がいる。瑞西は物珍しそうに私の部屋の中を見回した。
「冷やかしに来たのなら早く帰ってもらえる。」
私は瑞西に言った。
「大変失礼しました。お嬢様の日頃の生活が気になりまして。お伺いしました。」
「別に普通の生活スキルはちゃんと持っているわ。フィクションの大富豪と一緒にしないでちょうだい。」
とは言ったものの、家事は瑞西がしていることを見よう見まねで実践しているに過ぎない。そして、それでどうにかなるものは料理以外だったというのがかなり悔しいのだ。ちゃんと学校の授業で家庭科は習ったのだが・・・。
「・・・それに私の生活が気になっただけじゃ無いでしょ。何しに東京へ来たの。」
と聞いた。
「はい。夏休み、お嬢様が大阪に帰省されたことはご両親にお伝えしました。」
「また、余計なことを・・・。」
「お嬢様が大阪を発たれてからお伝えしたものです。事後報告ですので、その点はご容赦ください。」
「まぁ、いいわ。」
「ご両親はお嬢様とお話しする機会はいただけないかとおっしゃっています。それに関してお嬢様の信条が変化しないのも理解しております。しかし、お嬢様。ご両親とは一度話し合いをされた方が良いと思います。双方のわだかまりを除去するためにも・・・。」
「その話をしに来たのなら帰ってちょうだい。私のことを理解しているのなら、この回答も予測しているでしょう。」
「おっしゃるとおりでございます。」
瑞西は短く言った。
「この話は終わりにしましょう。それに、私があの忌々しい両親と話す時は必ず来る。それが今で無いだけ。私が鉄道会社からの内定を貰ったら、話しに行くわ。あんたたちの計画はこれで完全に崩してやったってね。その時にどんな顔するのか、私は今から楽しみなの。」
「・・・。」
瑞西は黙って聞いていた。
「さて、料理でも作ろうかしら。」
「えっ、お嬢様が料理なさるのですか。」
「なにっ。普段は私一人で生活しているんだから、当然でしょ。」
「では、お嬢様のお財布に飲食店のレシートが大量に入っているのはなぜなのですか。」
「人の財布勝手に覗いたわね。」
「しっ、失礼しました。」
「失礼すぎるわ。勝手に人の財布見るな。」
「申し訳ありません。」
「・・・フフフ。じゃあ、どこか食べ行きましょう。お金は大丈夫だから、奢るわよ。」
「お嬢様・・・。今日は私がいるのです。何なりとお申し付けください。」
「そう。」
「それと・・・、僭越ながら私がお料理についてお教えしましょうか。」
「そう、じゃあお願い。私あんまり料理特異じゃ無いの。普段から簡単なものばかりに済ませてしまっているから。教えて貰うと助かるなぁ・・・。」
「かしこまりました。時間が余りありませんので、お教えできるメニューは少ないと思いますが・・・。」
「いいのよ。これで料理できないのはどうにか出来るわ。」
あっ、言っとくけど、魔法の料理を量産するスキルは無いからね。




