462列車 ・・・。
4月1日。
「さて・・・。」
ウチは荷物を持って立ち上がった。今日、この家を離れ一人東京に行く。その日が来たのだ。
「光、ちゃんと準備できた。」
「大丈夫だよ。お母さん。」
お母さんを見てそう答える。隣には寂しそうな顔をしている智萌がいる。
「・・・光、本当に行っちゃうの。」
ポツリと言った。
「ただ東京行くだけなんだけど・・・。ちゃんとゴールデンウィークには戻ってくるから。安心しろよ。」
ウチは智萌に行った。あんまり寂しそうな顔されると困るなぁ・・・。
「・・・お父さんは。」
「もう仕事で出掛けたわ。頑張ってこいって言ってたわよ。」
お母さんがそう言った。そうなんだ。お父さんは仕事が優先だからなぁ。
ウチは手で荷物の確認をした。ズボンのポケットに切符が入っていること、次に東京に持っていくバック。それらを手で押さえながら、確認する。
「うん、持ち物はオッケイ。」
「じゃあ、行こうか。智萌はどうする。留守番してる。」
「私も行く。」
お母さんはそれを聞くと下に降りていって、車を出す準備をした。ウチも下に降りていくと外からレヴォちゃんのエンジンがかかった音が響く。
車で守山の駅まで行く。時間はただいま9時30分。乗る列車は米原方面行きの新快速だ。この先ウチは新幹線ではなく在来線で東京まで向かう。お父さんが買った青春18切符を貰っているし、お金をあまりかけない旅行をするにはちょうどいい。持っている18切符の残りは3日分。途中の浜松でおじいちゃんたちの家に立ち寄りながら向かおうかと思っている。
「次に来る米原方面行きの新快速は・・・9時55分かぁ・・・。ごめんね、光。もうちょっと早く来れば良かったわね。」
新快速かぁ・・・。その前に米原方面へ向かう列車は9時49分発の米原行き。どう考えても能登川ぐらいで9時55分発の新快速に抜かれるよなぁ。
「いいじゃん、別に。お母さんは光にさっさと東京に行って欲しいの。」
「そんなわけ無いでしょ。お母さんだって本当は東京に行って欲しくないわよ。」
「・・・。」
何やってるんだか・・・。
「お母さん、智萌・・・。」
「あっ。光、浜松にはおじいちゃんが迎えに来てくれるって言ってたわよ。だから、ちゃんとおじいちゃんたちに何時に浜松に着くかLINEで連絡しなさいよ。」
「うん、分かった。」
「1番乗り場に新快速野洲行きが12両で到着します。足下白色三角印1番から12番で2列に並んでお待ちください。1番乗り場に列車が参ります。ご注意ください。」
流れたアナウンスは1本前の野洲行き新快速のものだ。野洲は守山の一つ隣である。これに乗っても隣の駅までしか行けない。
「あっ・・・。」
入線してきた車両を見てウチは小さく言った。
「223系かぁ・・・。乗るの。」
お母さんが聞いてきた。でも、ウチはそれに首を横に振る。乗っても隣に行くだけだ。まぁ、1000番台だったら飛び乗ったかな・・・。
だが、この列車に乗らなくても乗る列車はあと10分ほどでやってくるのだ。
10分過ぎ、その列車が守山に入線した。車両は前の新快速と同じ223系。
「行ってらっしゃい。」
短くお母さんが言う。
「行ってきます。」
ウチもそれに短く答えた。
ドアが開き、降りる客を待って、ウチは車内に入る。
「気をつけてね。」
「うん。」
ちらっと智萌を見たが、智萌はお母さんの陰に隠れてこっちを見ようともしない。
「おい、ちゃんと送り出してやれ。」
お母さんの言葉に智萌がなんと返したのかはだいたい察しが付いた。お母さんの腕を握る手に自然と力が入る、そんな気がした。
「新快速米原方面長浜行き、発車いたします。ドア閉まります。ご注意ください。」
車掌がそう言った時、智萌の右親指が上がる。グッドラック・・・かな。車掌の予告通り、ドアがいったん閉まりかける。だが、ちょっと閉まったまた開いた。誰か駆け込み乗車でも試みようとしたのかな・・・。
「ドア閉まります。」
仕切り直しで今度はちゃんとドアが閉まった。
「ヒュゥゥゥゥ。」
ブレーキが緩解され、新快速は守山のホームを離れ始める。新快速が守山のホームの橋を通り過ぎた時、何かたがが外れたように涙がこぼれた。
「次は野洲、野洲です。野洲の次は近江八幡に止まります。」




