460列車 姉弟
2月の高校受験まで後は駆け抜けるだけだった。たくさん勉強して、統一テストで結果を出し、着実に実力を伸ばす。やることは決まっていた。
受験が終了するとウチは勉強を高校の予習にシフトした。まぁ、何やるかなんて課題とか渡されているわけじゃないから、ほとんど鉄道の勉強に終始した。と言っても、ほとんどは亜美から提供して貰ったものだ。
(それにしても・・・。亜美ってこういう知識どこから得てるんだろうなぁ・・・。)
ウチは亜美から貰った資料を見ながらそう思った。そして、ウチが思っていたものはかなりぼんやりとしたイメージであると言うことを思い知らされていた。
「・・・。」
「光は良いなぁ。勉強しなくて・・・。」
智萌がそう言いながら、ウチの部屋に入ってきた。
「なんだよ。ウチだって勉強してるんだぞ。智萌はウチのことじゃなくて、自分の勉強したら。」
ウチはそう言ったけど、智萌は何か言いたそうだ。手には勉強道具を持っているからだいたい察しが付く。
「やり方なら、教えてやるから自分の力でやれよ。」
「ありがとう。」
智萌はすぐにウチの隣に来た。勉強道具を広げると、
「まず、ここ教えて欲しいんだよ。」
「・・・そこは・・・。」
一通り智萌が言う問題のやり方を教える。教え終わると智萌自身に勉強を解かせる。溶けるといつも「すごい、光天才。」という声が聞こえてくる。天才って大げさなんだよなぁ・・・。岩槻に行ける、そしてついて行ける学力を身につけただけなのに。
「でも、光公立の勉強・・・。」
「人の心配する暇があるなら、次の問題解け。」
「光、顔怖い。」
「怒られる事してるんでしょうが。」
と言ってから、智萌にいつも怖いと言われる表情を解いた。
「ウチだって、心配してないわけじゃないよ。でもさ、ウチは岩槻に行かないと他がないだけ。自信はあるんだよ、根拠はないけどね。」
「根拠無いって・・・。光も馬鹿なんだね。」
「ああ。そうかもね。一種の馬鹿だよ、ウチは。」
智萌の手元に広がっている問題集を見てみると、最初に解いた問題以外全く手を付けていないのが見えた。ウチの目の動きでウチの言いたいことが分かったのか、
「今から、解くから。」
慌てながら、シャープペンを動かし始めた。だが、すぐにその手が止まる。
「どうした。」
「だって・・・。光岩槻行くことになったら、東京に行っちゃうんでしょ。」
「そうだな。ここからは通えないからな。東京で一人暮らしするしかないなぁ・・・。お母さんやお父さんともその話はしてるから、一人暮らしする場所は問題ないかな。」
「・・・寂しいよ・・・。」
智萌がポツリと言う。
「こうやって、光と話せる時間がどんどん少なくなるって・・・。寂しいよ・・・。」
「おい、何も東京に行ってずっと帰ってこないわけじゃないぞ。」
「・・・光は寂しくないの。お父さんともお母さんとも私とも離れて暮らすんだよ。少なくとも3年は。」
智萌の言いたいことはよく分かる。東京に行きたいといった時からそうなるって事は頭の中ではよく分かってたことだ。
「ああ・・・。そうなんだよね・・・。」
「・・・。」
「寂しくないわけ無いでしょ。」
ウチはそう答えた。
「・・・。」
「会いたくなったら智萌だって東京に来れば良いじゃん。」
「簡単に言うわね。夏休みとかじゃないと会いに行けないのに・・・。」
「・・・うん。でも、会えるんだから良いじゃん。」
「そう言うのは嫌い・・・。」
「えっ。」
「勉強教えてくれる人が・・・。」
「張り倒すぞ、お前。」
「顔、怖い。やめろ。・・・もちろん、さっきのは冗談。」
ニッと笑って見せた。それにつられ、ウチもニッと笑う。
「・・・大好きだよ。光。」
「・・・ウチも智萌のこと好きだよ。お姉ちゃんとして。」
「私も好きだよ。」
その声にウチと智萌は振り返った。後ろにはお母さんが立っていた。
「私も大好きだよ、二人のこと。」
もう一度同じ事を言う。
「光、ポストに岩槻から届いた封筒があったわ。」
そう言い、ウチに大きめの封筒を渡してきた。「岩槻の合否じゃない。」お母さんのそういう声を聞きながら、ウチははさみを手に取った。中の書類を切らないように封筒の隅を着る。中から全部の書類を出すと、ウチは合否の書かれた紙を探した。
「・・・合格・・・。」
小さい声でウチが言う。




