431列車 誤解の始まり
「光さん。あなたご自宅はどちら。」
亜美の家を出るなり、亜美のお母さんはそうウチに聞いてきた。
「えっ。滋賀県です。滋賀の守山・・・。」
今日初めて知った人だからなぁ。あんまり言っちゃ行けないことだとは思うけど・・・。でも、亜美のお母さんだしそんな悪いことに使おうなんて思っちゃいないだろうなぁ・・・。
「滋賀の守山ね・・・。分かったわ。」
分かったって何が・・・。するとウチの前に黒の大きな車が止まった。チョッ止まって・・・。これって「四季島」でやってるリムジンサービスの車と同じようなのだよなぁ・・・。
「どうぞ。乗ってください。お送りしますよ。」
「そ・・・そそそ・・・そんな悪いですよ。」
ウチはそう言ったが、
「遠慮なさらず。私のせいで今日の予定を台無しにしてしまったようですから。と言いましてもさすがにこんなものを見せられたら、気が引けますわね・・・。」
そりゃ気が引けて当たり前だと思うなぁ・・・。そもそも日本には一体何人の人がそんな黒い胴長の車に乗っているというのだろう・・・。
「いらぬご配慮でしたか。」
「・・・。」
うーん、そう言われるとなんか乗らざるを得ない様な気がしてくるんだよなぁ・・・。でも、
「大丈夫です。ありがとうございます。」
一体何が大丈夫なんだろうなぁ・・・。
「そう。分かりました。」
亜美のお母さんは一礼すると車に乗ろうとした。あっ、ちょっと聞きたいことがあるんだった。
「あのっ。亜美のお母さん。」
「はい。」
「亜美がJRに行くこと反対してないんですよね。なのに、何で亜美はあんなにお母さんたちのこと嫌っているんですか。」
「・・・そのこと・・・。お話なら、外ではなく。車の中でゆっくりいたしましょう。いかがですか。」
「・・・。」
そう来るかぁ・・・。でもウチの聞きたいことは車の中でしか話してくれないかぁ。大阪まで来たから本当のところ新快速で帰りたいんだけど・・・。ちょうどお金も浮くしなぁ。・・・お金が浮く・・・。
「なら、お願いします。」
お金の節約になるって思うとこうなっちゃう様な・・・。もちろん、褒められたことじゃないけど。
「どうぞ。先にお乗りになって。」
そう言い、ウチはリムジンの後ろの席へ通された。こんなところ乗っちゃっていいのかな。そう思うと自然と体が縮こまる。
「咲夜様。そちらのお客様は。」
「娘の友人だそうよ。荒潮、この方をお送りしたいの。滋賀の守山までお願いできるかしら。」
運転席に座っている人に亜美のお母さんはそう言った。本当に送ってくれるなんて。未だにそれは信じられない。
「承知しました。」
返事をすると運転手は車を走らせ出した。
「まだ私の名前を言っていませんでしたね。私は崇城咲夜と申します。よろしくお願いいたします。」
そう言い、ちょっと頭を下げた。ウチもそれにつられて頭を下げる。
「さて、亜美のことでしたね。」
「はい。亜美の夢の事って反対してないんですよね。」
「はい。それは間違いありません。」
「でも、何で今みたいになっちゃったんですか。」
「・・・それは亜美を誤解させてしまったことが原因なのです。それが今も続いているのです。」
誤解・・・。あの亜美が誤解している事ってあるのか。
亜美のお母さんが言うには、亜美が学校に行き始める前から教育を始めたらしい。それはさっき亜美が言っていた「英才教育」や「経営者にしたいのでしょう」という言葉につながっていくというのだ。
「私達も最初はそれが亜美の幸せなのだと思っていました。しかし、亜美は経営者になることよりも自分がなりたいものを見つけたのです。それが先ほど光さんが言っていたJRに行きたいという夢なのです。」
「・・・。」
そうだったのか。車の外からは走行音がだんだんと大きくなっている。お父さんのレヴォちゃんも高速道路に入ったらエンジン音が大きくなるから、高速道路に入っているんだなぁ・・・。
「しかし、それは自分の孫娘を会社の後継者としたい御父様方のお考えと真っ向からぶつかることになるのです。」
ちんぷんかんぷんになっているウチの顔を見たのか、
「あっ、御父様というのは光さんから見れば御爺様のことです。」
と付け加えてくれた。
「御爺様と御婆様は亜美がそれを口にするなり猛反発しました。何度も「そんなくだらないことを追いかけるのはやめなさい」と・・・。それ以外にも自分の孫娘にかける言葉ではないことも言っておられました。ここでそれを言うのは差し控えさせていただきますが、ご容赦ください。私達はそんな御爺様方を見て、経営者になる娘は本当に幸せなのかと考えを改めざるを得なかったのです。それは親として、娘のことを第一に考える。ごく自然なことでした。」
「えっ、じゃあ・・・。」
「順番にお話ししますよ。」
そういうと、一呼吸おいてまた話し始める。
「その後御爺様はそんな私達両親も自分たちの考えに同調させようと動かれました。それは私達が亜美の夢を諦めさせるよう直に説得するためでした。しかし、私達はもう御爺様方のやり方に疑問を抱かずにはいられません。私達もそんな御爺様方のやり方や亜美の意見を尊重するよう最初は議論しました。もちろん、御爺様方は私達のこの意見にも猛反発しました。日が経てば経つほど、私達の意見と立場は悪くなっていったのです。そして、ついにあの日が来てしまったのです・・・。」
それまで淡々と話していた亜美のお母さんの声が変わる。何か泣いているような・・・。
「周囲の猛反対に私達も自分の意見を押し通しづらくなっていました。その夜私達は亜美のことについて話していました。このまま娘のためを思って御爺様方に反対を言い続けるか、御爺様方の意見を飲んで亜美の夢を諦めさせるのか・・・。当然のことながら、私達の意見が変わることはありませんでした。しかし、この話をしている時、亜美に聞かれてしまったのです。「夢を諦めさせるべきか」という部分を・・・。」
「・・・それが亜美の誤解になってるんですか。」
「はい。」
そう言うと
「私達は亜美のことを思っていたのに・・・。」
「亜美にそのこと話さないんですか。」
「お話しするにしてもそれはかなり難しいでしょう。亜美にとって今の両親の話は眼中にないのです。・・・それと光さん、あなたにお願いしたいことがあります。このことは亜美には言わないでください。」
「どうしてですか、言えば誤解は解けるのに。」
「ええ。いずれはそうなるでしょう。しかし、この話は私達からしてこそ意味のあるものとなると考えています。光さん、あなたが亜美から一番信頼されているとしても、親が話さなければならないこともあるのです。」
話はそれで終わった・・・。




