423列車 元日の予定
12月半ば。
「おーい、永島。」
鳥峨家が僕を呼んだ。
「なぁに。」
「今日、シフト決まったから、今日の夜の点呼から有給休暇ある人に早く有休申請書いてって言っといて。今日当務長でしょ。」
「いいよ。」
どういうシフトか鳥峨家から貰った紙を見てみる。
(ああ、元日は休みかぁ・・・。)
心の中でつぶやいた。12月終盤の僕の勤務は結構キツかった。だが、12月31日に仕事が終了する上にこれ以上勤務に入ることが出来ないほどあった。だから1月1日が休みになることに確信を持っていた。紙を見て、その確信を確認したのだ。
(ヨシッ、来年はあれが出来るなぁ。)
「永島。」
「あっ。」
「聞こえてた。」
「うん。大丈夫。点呼から言っとくから。」
「永島。戸締まりは後俺がやっとくから。」
「ありがとう。じゃあ、お疲れ様。」
「はええなぁ・・・。ハァ・・・。まっ、いいか。」
僕はスマホを取り出した。
「はい、はい。」
LINEの電話に出たのは萌だ。
「萌。元日休みだよ。」
「オッケイ.じゃあキャンセルしなくていいね。」
「うん、後は何もないことを祈るだけだよ。」
「はい、はい。気をつけて帰ってきてね。待ってるわよ。」
「うん。」
ウチらにとっては冬休みが近づいてきている。さて、冬休みが近づいてくるって言うのは受験までも着実に近づいてきていると言うことだ。まぁ、ウチらにとってはまだ1年後の話であるが・・・。
さて、塾に通い始めて以来、数ヶ月に1回ペースで実施される統一テストの評定は着実に上がってきている。直近の統一テストではついにB判定にまでもっていった。もちろん、B判定の中でも限りなくA判定に近いB判定だ。この判定にウチは自信を付けて行っているが、B判定自体に納得しているわけじゃない。もっと貪欲に上の判定をこれからも狙っていくつもりだ。
「ふぅ・・・。」
「光。終わった。」
後ろから智萌の声がした。
「教えないからね。自分の力でやってよ。」
「ええ。教えてくれたっていいじゃん。これ難しいのよ。ねぇ、光教えてよ。」
「ハァ・・・。まだ自習室でも簡単なところしかないでしょ。やり方教えるからその通りにやりなよ。」
全く、智萌は・・・。普段から勉強する癖が付いてないから備えないと行けないときに騒ぐのさ。そう言おうと思ったけど、言わないことにしよう。どうせしないだろうし・・・。
「ありがとう。」
「二人とも。」
その声でウチと智萌の目がドアの方を向く。
「あっ・・・。」
「お母さん。あっ、違うの。光に答えを教えて貰おうと思ってたわけじゃないから。」
「コラッ。」
そういい、お母さんは智萌の頭を思いっきり・・・じゃなくてゆっくり握り拳を頭においた。
「イタ・・・痛くない・・・。」
「ちゃんと自分の力で解きなさい。」
「自分の力じゃわかんないんだもん。光に教えて貰って自分で解く。それでいいでしょ。お母さん。」
(・・・あんまり私も人のこと言えないからなぁ・・・。ハハハ・・・。)
「分かったわ。さて、光。智萌。私たちからプレゼント。」
そういい、お母さんはウチと智萌に1枚のマルス券を渡してきた。
「あっ。元日乗り放題切符。」
元日乗り放題切符はJR西日本が発売している切符。その名の通り1月1日の元日のみ、JR西日本管内であれば乗り放題という切符。簡単に言えば、JR西日本管内だけの青春18きっぷと言ったところだ。ただ、18きっぷと一線を画す効力がこの切符にはある。それは最大4回までであれば新幹線、特急の指定席に乗車が出来ると言うことだ。存在はインターネットや動画サイトのことで知ってたけど、本物を見るのは初めて・・・じゃないらしい。小さいときに行ったらしいけど、ウチにはほとんどその記憶が無い。ただ、N700系「のぞみ64号」のグリーン車に乗ったことはよく覚えている。
「悪いけど、行き先は私たちで決めさせて貰ったわ。行くのは上越妙高と博多。」
でも、そんなことはいい。それが出来るって言うことが嬉しいんだ。
「えっ、元日に電車乗り行くの。私は行かないよ。」
智萌はそう言う。でも、
「いいのかなぁ。ウチは付いてこうと思うけど。それにお母さんが私たちからプレゼントって言ってるって事はお父さんも家にいないって事だよ。家で一人さみしく信念過ごすつもり。まぁ、智萌が新年早々から家事全部一人でやるって言うならいいけど。」
「ああ、分かった。行くわよ。行けばいいんでしょ。」
「智萌。多分智萌が思うほど疲れる旅じゃ無いと思うよ。長距離の移動は全部新幹線のグリーン車だから。最初と最後ぐらいだよ。」
「グリーン車って。マジで。」
「マジで。」
「おお。乗って由佐ちゃんやあさひちゃんに自慢しよう。」
単純というか、なんというか・・・。
指定されている列車は「のぞみ1号」、「みずほ612号」、「はくたか572号」、「はくたか571号」すべてグリーン車だ。
(新年から楽しみだなぁ・・・。)




