42列車 どうしたい
それから一週間。今は9月20日から9月23日までの4連休の真っただ中。9月21日。
「あれ。今日は留萌練習来てないけど。どうかしたのか。」
部活の先輩が室蘭にそう聞いた。
「えっ。」
練習の時はそんなのどうでもいいという感じだったが、昼になって全員それに気づいたらしい。
「練習休むってことあいつなかったのになぁ。今のところ出席率100%だったのに。」
「でも、ちょっとこの頃ダルそうなところあったよな。」
「ついに噴き出たかぁ。ふつうなら噴き出ないと思うんだけどねぇ。」
「・・・。」
「まぁ、毎日練習で体調崩したってこともあるかもしれないだろ。室蘭。今日練習終わったら今日どうしたか聞いてくんない。」
「ああ・・・はい。」
(留萌・・・。まさかとは思うけど・・・。)
心の中で思っているだけにしておいた。
19時。練習終了。全員友達と帰ったり足早に帰ったりするやつと帰り方は様々。室蘭はある程度のところまでは足早に帰って、携帯電話を取り出した。メール機能を起動させて、あて先を留萌にして内容を書いた。
「今日練習来なかったけど、大丈夫。風邪?」
返信はすぐにあった。
「ごめん。忘れてた(汗)」
文面はこうなっていた。しかし、練習は毎日ある。そして、この文面からして、博多先輩が言っていた体調を崩しているということはない。
(忘れるようなやつじゃないと思うんだけどなぁ・・・。)
今度は思ったことをそのまま文面にして、返信する。
「忘れるようなやつじゃないだろ。毎日練習してるんだし、ちゃんと来いよな。休みたいのは分かるけどさぁ・・・。」
またしばらくたって留萌からの返信が返ってくると思っていたが、その返信がなかなか返ってこない。いつもならすぐに返ってくるのだが・・・。
(なかなか来ないなぁ。もう返事来ててもいい時間なのになぁ。なんで・・・。)
その頃留萌は・・・。
(なんて返信すればいい・・・。自分の中でイメージはできてるのに言葉にできない。)
返信の内容に苦しんでいた。いつもならすぐに言葉が浮かんでくるのだが、今日はそうはいかない。なぜか言葉にする部分がくすぶっている。
「・・・。」
(言わなきゃいけない。それは分かってる。それだけなのに・・・。)
(忘れてたって言ってもやっぱり風邪だったのかなぁ。ちょっと心配だし、電話してみるか。)
今度は電話帳を開いて、留萌の電話帳を出した。
携帯電話が鳴る。
(誰だろう。)
端末を覗き込むと携帯番号と室蘭友紀の名前がおどっていた。
「友紀からだ。」
言葉に出すつもりはなくても体が言うことを聞かない。携帯をとって決定ボタンを押して、耳元に当てる。
「留萌。」
電話の向こうから室蘭の声がする。
「さっきメールしたけど、返事とか返ってきそうにないから電話しただけだけどさぁ。大丈夫。」
「うん。大丈夫だよ。心配かけちゃってごめん。」
留萌のほうはいつもの応対をしたつもりだった。
(元気がない・・・。留萌はいつもと同じようにしようとしてるのかもしれないけど・・・。やっぱ何かおかしい。・・・。そういえば、このごろ留萌、木ノ本のことなんか友達じゃないように見てるのは・・・。もしかして、本当に。)
「友紀。」
「留萌。正直に答えて。ソフト部辞めたいと思ってるの。」
「・・・。」
自分が言いたいことを向こうから射抜かれる。
「何。なんでそんなこと言うの。別にやめたいなんて・・・。」
「どんなに自分の気持ちを隠せてもあたしにはわかるよ。」
「・・・。」
「やりたくないんだろ。だったら辞めろよ。」
そういうと返事は返ってこなくなった。さらに言葉を続ける。
「このところ木ノ本のこと気にしてるのには気づいてたけどさぁ、本心じゃあ鉄研行きたいんだろ。辛いソフト部続けてるより、そっちにいたほうが自分にとっては楽しいんだろ。」
「そんなこと言わなくても・・・。」
「今だからそういいたいよ。そんな気持ちで部活に来る人なんかと練習したくないから。」
言葉のたびに声が大きくなる。
「このごろ鉄研にいった木ノ本のことがうらやましいんだろ。自分もいつかは木ノ本たちと一緒に笑いたいって思ってるんだろ。でも、今のままじゃそれができない。」
「・・・。」
「素直になって。留萌はどうしたいわけ。」
「・・・。」
しばらく黙りこんだ。
「友紀って何でもお見通しだね。」
「・・・。」
「もしかして、私が岸川に言った本当の理由も。最初から。」
「ああ。オープンキャンパス行って以来なんか変わったところがあるとは思ってたよ。」
「そう・・・。なら、友紀は・・・。」
「認めるも何もないって。行けよ。」
「・・・。」
またしばらく黙っている。
「友紀。ありがと。友紀のおかげで目が覚めたよ。私ってバカだよねぇ。これだけのこと言うだけなのに、何十日もかかって・・・。」
「やっぱり女子鉄って複雑なんだな。あたしには何もわからないけど、これだけ迷うんだからな。」
「ハハ。」
「でも、留萌の母さんたち鉄研行くってこと許してくれるのか。」
「そんなの今考えても仕方ないよ。これからどうにでもする。」
「そう。・・・。留萌。また戻ってこいよ。」
そう室蘭が言葉にする。すぐにその意図が読めなかったが恐らくこういうことだろう。
「戻って来いって。もうソフト部に戻ることはないと思うけど。もしかして友紀もバカになったの。」
「・・・。そ・・・そうだな。」
「ハハ。友紀にもそういうところあるんだ。」
「・・・。」
「じゃあね。友紀。」
「ああ。」
そう言って電話を切った。
(バカはどっちだよ。言葉足りなかったかなぁ。)
ふと、自分が高校受験するときのことを思い出した。
「友紀早く、早く。見れなくなるよ。」
「何こんなところまで連れてきて。何か珍しいもんでも見れるわけ。」
連れてこられた場所は新幹線の線路沿い。新幹線は盛土でいまいる道をまたいでいる。
右からキーンという音がしてくる。すると木ノ本と留萌が手を合わせて、
「友紀が岸川に受かりますように。」
するとあたりを轟音がつつんだ。ちょっと視線を上げると黄色い車両が通り過ぎていくのが見えた。
「これで友紀はきっと岸川に受かるね。」
「えっ。どうして。」
すると二人は自分のほうを向いてニッと笑う。
「今見たでしょ。黄色い新幹線。あれ「ドクターイエロー」っていうんだけど、またの名を知ってる。」
当然知るわけがない。
「「幸せの黄色い新幹線」っていうんだよ。これで友紀には必ず幸せなことが起こるんだよ。」
(単純というか、子供というか・・・。)
「友紀っていま私たちのこと子供っぽいなぁって思ってるでしょ。でもそれでいい。それぐらいじゃなきゃ面白くないし。」
その時自分の後ろでそう言ったのが留萌だった。
(戻って来いって言ったのは電車が好きなことを隠してなかったあの時。あの時になって戻って来いってこと。子供っぽいって思われるくらいになって戻ってくればそれでいい。)




