364列車 萌の話
「ただいま。」
そう声を上げた。
「ふぅ・・・。疲れた。」
僕はそう言って買い物袋を玄関に置いた。
「ナガシィ、お疲れ様。今日はありがとう。」
「別にいいよ。暇だったし。」
あれから何年も経つと自分の家ってものを持つようになった。2階建てで、とても大きいとは言えないのだが、よく黒崎さんや二ノ橋さんは「この大きさで小さいっていう神経はよく分からない。」と言われる。いや、そんなに言うほど大きくないと思うのだ。新築で最近よく見る2階建ての車庫付の家2つ分の用地程度の広さしかないのだ。断じて広くはない。
「ナガシィ、買ってきたもの冷蔵庫にしまうの手伝ってくれない。」
「・・・今回だけだからね。」
とか言いつつ、毎回手伝っているけどね。
今日は最初から萌の買い物に付き合ったわけじゃない。萌はその前に黒崎さんたちと一緒に高槻の家に行ったのだ。なんか話でもあったのだろう。その内容までは突っ込まないけど。それが済んだから、僕を呼び出して買い物に付き合せたってわけだ。
「そう言えば、萌。高槻とは話せたの。」
「うん、久しぶりにね。」
「よかったねぇ。」
「ナガシィだって、高槻君と話そうと思えば話せるじゃない。近くは無いけど。」
「・・・。」
ああ、確かに。近くは無い。前は千里中央近辺に住んでいたけど、服部さんと結婚してからは高槻の方にこしたらしい。紛らわしいなぁ・・・。
「あっ、高槻君と久しぶりにどんな話したかっていうとね。」
萌から話の内容を言い始めた。
「前に高槻君の親戚の子供に家出癖があるって言ってたじゃない。」
「・・・あっ、そんなこと言ってたねぇ。」
ふと思い出した。確かにそんなことを言っていた。
「そう言えば、その子の家出癖は直ったの。今のご時世だから、そう言うのは親としては心配だよね。」
最近は物騒な子供を巻き込む事件が多いような気がする。寝屋川の事件とか、埼玉の失踪事件とか。
高槻の親戚の子っていうのは有名企業のお嬢様らしい。しかも、歳は光や智萌と同じ。現在は小学校6年生だ。もし、犯罪を犯そうとしている人がいるとしたら、これほどの格好な獲物は無いであろう。
「うん。でも、家出癖は直ってないみたいなの。」
「直ってないって・・・。結局どこにいるか分かんないんでしょ。」
僕はそう言ったが、萌は首を横に振った。
「いや、それがどこにいるかは分かったんだって。だから、もう捜索に協力してくれなくてもいいってなったのよ。」
「・・・変な話だねぇ。見つかってないのに、見つかったって。」
「どうも、高槻君の家に流れてきた話じゃ、その人のおばさんのところにいるんだって。それに、今まで学校に通ってなかったって言うのは嘘で、実は別の学校に転校して、そっちの学校に通ってるんだって。」
別の学校に転校してまで学校に通うって。どれほど勉強が好きなのだろうか。そして、それなら別に転校する必要がないと思えてならないのは、親の都合ともいうべきだろうか。
「執念ってものかなぁ・・・。」
萌はそう言いながら、僕にキャベツを渡してきた。
「・・・外野が聞いてるだけじゃ、その子が何をしたいのは全然わからないね。」
僕はそれを冷蔵庫の中にしまう。
「あっ、ナガシィそこにいれたら、他のものが入らなくなっちゃうよ。」
「えっ。何度もだけどさぁ、萌がこっちやってよ。僕じゃ分かんないから。」




