362列車 光
2030年、滋賀県草津市。2016年ぐらいよりも都市化が進み、草津市は更なる大阪のベッドタウンという様相を呈している。東海道本線をはさんで草津はビル群と小さい建物が建つなど綺麗に別れた街並みである。
「間もなく5番乗り場に、新快速、米原方面、長浜行きが12両編成でまいります。」
そのアナウンスが流れる。
「来るのは225系か223系だろ。あれが一番新快速の中で多いしな。」
「ああ、それと225なら100番台、223系なら2000番台の系列だろうな。あれが一番多い。」
5・6番乗り場の大阪形でウチと友達はそう話した。
ウチ。この一人称はなんか変かな。でも昔からウチはウチで通してたから今更変えられない。ウチは永島光。そして、話している友達は長宗我部煌っていう。
「来たっ。」
長宗我部が小さく声を上げた。
「まぁ、お決まりだねぇ。」
そう言いカメラを構える。
先頭を見る限り、絶壁フェイスだ。225系であることは間違いない。
225系は当初、関空・紀州路快速や東海道系統の新快速の充実化を図る目的として、投入された車両である。特にその第一波である0番台と5000番台は全両置き換えが出来るほどの量を短期に製造したわけではなかった。その後100番台、5100番台へのモデルチェンジを経てからは東海道系統では主に新快速の12両編成運転の拡大のために、阪和線系統では103系などの国鉄型電車を淘汰する目的で製造が続けられた。その後、湖西線、草津線、奈良線などで使用されていた103系、113系、117系を置き換えるため、221系を東海道系統から追い出すための置き換え用として100番台に限り投入が再スタートすることとなった。
関西圏の快速・新快速には同じ車両が用いられるため、結果として225系は223系2000番台には及ばないもののそれに次ぐ勢力へと拡大したということなのだ。
「225系だな。珍しく0番台だぜ。」
「0番台かぁ。希少だね。」
JR西日本の所有する列車のほとんどは先頭に転落防止用の幌が取り付けられている。225系についていても何ら違和感がないのは見すぎているせいだろうか・・・。
先頭が僕らの横を通り過ぎ、速度をだんだんと落として、草津駅5番乗り場に入った。
今入ってきた225系の4両Y編成の後ろにくっついていたのは同じ225系のI編成のようだ。だが、ライトのつき方の違いから100番台だと分かる。
「・・・今日は見れそうにないなぁ・・・1000番台。」
ウチがそう言うと、
「ああ。今日は諦めますか。」
長宗我部も納得したように言った。
「じゃあ、ちょうど来たこれに乗るか。」
そういい、今入ったばかりの新快速に乗り込んだ。
列車の中はちょっとがらんとしている。大概の乗客は草津で降りてしまう。そのため、その先に直通する新快速の12両編成ならまず席に座れないことはない。と言っても、ウチらが降りるのは草津から2つ先。新快速なら隣の守山駅だ。座る必要は正直ない。
「ドアが閉まります。ご注意ください。」
その声がホームに響き渡り、ドアチャイムがなるとともにドアが閉まる。
「そう言えばさ、光って中百舌鳥さんの事が好きなのか。」
「えっ、何その話。初耳なんだけど。」
「・・・。いや、光ってよく中百舌鳥さんと話してるからそう思っただけだよ。て言うか他クラスじゃあかなり広まってる噂なんだけどな。」
「誰だよ。そんな噂名がしたやつは。ウチは別にモズの事は好きじゃない。」
「呼び捨て、プラス渾名。好きじゃないっていうのは他人から見たら感じられないんだよ。」
「・・・。」
まぁ、まず長宗我部はこんな話題振らないか・・・。
「キラ、もしかして誰かにウチにそうやって聞けって差し金でもされたのか。」
「鋭いなぁ。その通りだよ。」
「じゃあ、その頼んだ人に言っといてよ。ウチは別にモズのことは好きじゃないし、恋愛対象として見ていないからって。」
「何もそんなムキになって否定しなくても。」
「ムキになんてなってないから。」
「はいはい。分かったよ。頼んだ奴にはそう言っとく。」
新快速はガンガンスピードを上げる。スピードのわりにうるさくないのは225系の特徴でもある。
外を見ていると草津の隣にある栗東駅を通過した。
「キラ、ウチがモズの事が好きって、他クラスでどんぐらい話題になる。」
「えっ、やっぱ気になるのか。」
「そんなんじゃないけど。」
「・・・まぁ、結構話題になるな。特に中百舌鳥さんのこと好きな男の子同士が集まるとそうなるんだよ。でも、ほとんどのやつは話すだけだよ。中百舌鳥さんって頭きれるし、可愛いだろ。」
まぁ、それは否定しない。可愛いし頭が切れる。男子としては恋愛対象として見ないっていうのはそう言うのを毛嫌いする人ぐらいしかいないだろう。でも、モズのちょっと違うところは別に頭がいいのは何とも思っていない所だろう。嫌な奴じゃないから人気が高いのも裏付ける。
「そうだな。だいたいモズの事が好きになるのは分からないわけじゃない。ウチは別に何とも思わないけど。」
「そう否定すると余計勘ぐるぞ。」
「・・・。」
「じゃあ、ウチはどうすればいいのさ。否定しても勘ぐられるし、否定しなくてもデマが広がるし。」
すっごい嫌そうな顔を長宗我部に向けてやった。
「いや、俺にそんな顔されても困るんだが・・・。」
「まっ、何でもいいよ。モズが好きなら好きに告白すればいいじゃん。ウチがとやかく言うことじゃないんだからさ。」
「・・・あのなぁ。お前は一度でも好きな女子を前にしたことがあるか。あの時何にも言えなくなる感情、光に分かるか。」
「・・・分からないわけじゃないさ。」
ウチはそう言ってちょっと外を見た。もう減速を始めて、守山に滑り込んでいる。
といってもそれは恋愛感情とはちょっと違うものだと思う。いや、そうに違いは無いのだが・・・。
(光ちゃんか・・・。)
登場人物
いろいろ面倒な噂がたってる:永島光
光の友達:長宗我部煌




