360列車 梓萌
「へぇ、北海道にねぇ。」
黒崎さんはそう言った。
「ナガシィったら北海道新幹線に機会が有ったら乗りに行くって言っててね。」
萌は僕の方を見てそう言う。
「北海道新幹線開業したの走ってるけどさぁ、何時間かかるのよ。」
「東京から終点まで4時間2分よ。速いでしょ。」
「・・・4時間って早いうちに入るのかなぁ・・・。ていうか、永島君もよくいくよねぇ。4時間も新幹線に乗ってなんかいられないわ。」
むしろ乗っていられる方がすごいという顔をしている。
(・・・4時間の壁って精神的なところも絡んで来るのかな・・・。)
話を聞いている梓を見ているとそうも感じてしまう。
「でも、今までは新青森~函館まで2時間くらいかかってたのよ。それが1時間くらい短縮されるんだから早くなったと思わない。」
「・・・2時間くらいが1時間になったんなら確かに早くなったなぁって思うけど。」
ちょっとだけ黙った後に、
「そもそも開業したところって青森から函館の間だけでしょ。新幹線いらないんじゃないかなぁ。」
うーん、さすがにこれは聞捨てならないかな。
「北海道に新幹線はいるよ。東京から新幹線で行けるようになるんだよ。」
「いや、なんでそこ推すの。だいだい東京からって言ってもどう考えたって東京から北海道まで新幹線で行く人いないでしょ。大概飛行機使うんじゃない。それに今はLCCを使えば1万円以下で北海道まで行けちゃう時代よ。誰が新幹線に乗るのってこと。4時間もかかるし、札幌まで行ったら当然それ以上の時間がかかるわけでしょ。」
梓の言うことはそうだ。旅客から見ると4時間というのは新幹線か飛行機かを選択するうえで重要な時間になるいう。実際、5年前に開業した九州新幹線では新大阪などの関西圏から熊本・鹿児島を4時間以内で結ぶように列車が設定された。最速の「みずほ」で開業当初3時間44分だ。
「ああ、梓。言いたいことはすっごくよく分かるんだけど、ナガシィはその飛行機とかあんまり乗りたくない人だから。」
「あっ、そうなの。高所恐怖症。」
「そうそう。」
「いいじゃん、別に。飛行機って落ちたら死ぬんだよ。僕はまだ死にたくはないからね。」
「えっ、でも今年北海道に行く時も飛行機乗るんでしょ。」
萌そこは突っ込むところじゃない。
「いや、あれは飛行機に乗らないと時間が足りないからであって、時間が有ったら新幹線で行くっていうの。ずっと下の方が安心できるし。」
「でも、JR北海道ってちょっと前に保守関係で不正が有ったって。」
「それは別にいいの。」
(いいんだ・・・。)
「まっ、ナガシィってこんな感じよ。とにかく鉄道で行けるところは鉄道で行きたい主義の人なの。だから、沖縄以外だったらいずれ鉄道で行くんじゃないかしら。通過している県も含めればもうほとんどの県に行ってるし。」
「アハハ、そういうことにしておくわ。」
(ていうか通過しただけは行った内に入らないんじゃ・・・。)
尤もだ。
「そう言えば、梓って大希君とどっかに行ったりとかはしてるの。」
「えっ。」
「例えば、あの場所にあるラブホとかラブホとかラブホとか。」
「ラブホ限定。大希とラブホなんて行ってないかないわよ。そもそもラブホなんて行かなくてもいいくらいよっ・・・。」
「いいくらい何・・・。」
「あっ、萌僕ここにいないほうがいいんじゃないかなぁ。」
「別にいいわよ。ラブホの話は冗談だから。」
「もう冗談に聞こえないからやめてよ。二ノ橋さんと話しているときだって僕がいるのに、すっごく気まずくなるような話するじゃない。」
本当にそうなのかなぁ・・・。まぁ、萌の言ってることだったら信頼できるか。
「本当に聞きたいのは大希君と新婚旅行とか言ったってこと。」
「絶対ラブホの振りから聞くことじゃない。」
うん、それはそうだ。
「あっ、考えてみれば大希と新婚旅行してないな。」
「えっ。」
「ふぅん。」
「えっ、それはホント。大希君と夜は性格から全然想像できないようなことしてるのに。」
「待って。やっぱり僕ここにいないほうがいいよねぇ。」
「あっ。あれは大希が、わ・・・私が抵抗できないように・・・。じゃなくて。あれは100パ大希のせいで。でもなくて、ちょっと私に何言わせようとするのよ。」
自分で言っておいてそれ言うんだ。ていうかやっぱり僕はここにいない方がいいんじゃないかな。萌って女子同士だけになったらこういう話も平然とするのかな。あれ、僕ってちゃんといること萌は分かってるよね。
「ごめん、ごめん。」
「あの萌。そういう話をするんなら僕がいないところでやってほしいんだけど。」
「そうよ。」
「分かったって。悪かったから。」
「・・・。」
「・・・分かったわよ。許すから。でも、これ以上恥ずかしいこと言いまくったらただじゃ済まさないからね。」
「はい。すみませんでした。」
「考えてみれば、結婚した後にちょっといろいろとあったのよ。それで旅行になんか行く暇すらなかったのよ。だから、今も新婚旅行には行ってないの。」
「ふぅん。ちょっと機会が有ったら行ってきなよ。山雲さんだったらシフト考慮して作ってくれると思わない。」
「考慮はしてくれるとは思うけど。」
「今は遠慮しとくわ。」
黒崎さんの声がした。
「確かに、考慮してくれるのはありがたいとは思う。でも、来たばっかりだもん。いくら希望聞いてくれるとはいえいきなり休みくださいっていうのもなんだかなぁって思うんじゃないかな。特に大希がね。だから、大希が行きたいって思うまで私は大人しく待ってることにするわ。」
そうは言ったけど、ちょっと残念そうだ。速いところ楽しい旅行に行きたいんだろうなぁ。
(あっ、鳥峨家君って今月連休ないじゃん・・・。)




