354列車 新しい人
僕は、コピー機の前にいた。再生紙だから、少し黒い色の髪が出てくる。それには仕事で使う書面が印刷されて出てくる。コピー機は自分たちの詰所にはない。東海の詰め所でコピーしているのだ。
仕事で使う紙の量を計算してみるとなんと12万枚ほどになる。どれだけの紙を年間で使っているのだろうか。月間に直しても1万枚消費するとは恐れ入ったものである。そう考えれば、今コピーしている神はあまり使わない神棚。1日で2枚しか消費しないからこれは60枚使われるだけ。31日の月なら62枚、2月でも56枚使う。今年はうるう年だったから58枚だ。
それだけ少ないとすぐにコピーが終了する。出てきたものを以て自分たちの詰め所に戻り、刷りたての紙にパンチを入れる。
「ナガシィ、着替え終わった。」
といい萌が詰め所に入ってくる。そうもうちょっとで帰る時間なのだ。
「ってまだ着替えてなかったの。」
「ちょっとコピーしてきただけだよ。」
「そうなの・・・。」
「永島君も早く着替えなさい。報告書は私が送っておくし何なら仕事の終了前に帰ってもいいわよ。」
夜露副長が書類をまとめながらそう言った。
「いや、でも。」
「いいの、いいの。みんな頑張ってるからサービスよ。」
「ありがとうございます。」
僕らはそう言った。チャチャッと仕事着からスーツに戻ると、
「報告書宜しくお願いします。」
と言って詰所を出た。
外は真っ暗で、冷たい空気が風に運ばれている。
「そう言えば、ナガシィ、長良隊長から4月に新人がくるかもって聞いてる。」
萌はそう言った。僕はそんなこと知らない。というより、シフトの兼ね合いで最近隊長とは顔も合わせていないのだ。
「聞いてないけど、それ本当。」
「まだ確定じゃないみたいだけどね。何でも、今度の人は名古屋で働いてたんだけど、そっちの人と合わなかったみたいでね。それで会社が異動検討して、人間関係良い○○に来ることにさせるっていう話になってるみたいよ。」
「へぇ、そういう人実際いるんだね。」
「まぁ、人と合う合わないはここでもあるしね。」
「ああ、そう言えばね・・・。」
それを聞いてから、僕はしまったと思った。新人隊員が来るってことは今日コピーしたやつは3月いっぱいで変わることになる。60枚は一月分であるから、何枚かは無駄になることが確定か・・・。
「どんな人なのかは聞いてるの。」
「男だって。それ以上の事は私も知らないわよ。」
「ふぅん。」
「まっ、詳しいことは今月の会議とかで決まるんじゃない。その時まで待てばいいじゃん。」
萌はそう言った。それもそうかと思った。あんまり僕たちが首を突っ込むことではないか。
数日後、
詰所においてある電話が鳴った。
「はい、お疲れ様です。夜露です。」
「お疲れ様です、長良です。」
「あっ、長良君どうしたの。こんな時間に。」
「ああ、4月に来る予定になってた新人隊員の事なんだけどな、」
「うん。」
「4月の2日に来ることが確定したんで、その報告なんです。」
「4月の2日にねぇ・・・。年度初めから来るのか。それで名前とかは長良君聞いてるのよね。」
「ああ、聞いてる。でも電話じゃうまく伝わらないと思うから、また明日になったら詰所のパソコンでその人の漢字とかいろいろ出すつもりでいるから。」
「電話じゃうまく伝わらないってどんな漢字よ。」
夜露副長はちょっと笑いながら、返した。
「それでロッカーの事だけどな。」
「ロッカーだったら開いてるのがあるし、山雲君の隣が今空いてたから、そこでいいんじゃないの。」
「じゃあ、ロッカーはそこを使うってことでいいか・・・。」
「あっ、ところで本当にその来る人の漢字って何なのよ。」
「・・・。」
長良隊長の言うように漢字をメモしてみる。
「見ない名字ねぇ・・・。これってハンコもオーダーメイドじゃないとダメな奴じゃない。」
「そうなんだよなぁ・・・。沙留以来だな。」
「アハハ、そうねぇ。」
机に置いてあるメモ紙には「鳥峨家」と並んでいた。これが次に来る人の名字らしい。




