353列車 私を甘くm(ry
「間もなく4番線に当駅止まりの列車が到着いたします。この列車は回送列車となります。ご乗車になれませんので、ご注意ください。」
そのアナウンスがホームに流れた。金沢駅の4番線は他のホームよりも富山側に突き出ている。このホームには主に和倉温泉に向かう七尾線の普通列車が出発する。
「どんなのが来るかなぁ・・・。」
萌は心待ちのように言う。
「東日本のHB-E300みたいなのだったりしてね。」
と僕は言った。
「花嫁のれん」はどう考えても北陸地方への集客効果を図るためのものである。JR西日本が北陸方面に結構な投資をしたのは北陸新幹線の開業で明らかである。開業で北陸本線が再編されたのと引き換えに、城端線、氷見線、七尾線に投資をしてもおかしくない話だ。「花嫁のれん」はその一環の一つであろう。どういう列車かはあまりよく分からないが、「ダイナスター」、「能登かがり火」とは違い、普通の特急ではなさそうだ。最近はやりの「観光特急」というやつだろう。
「でもHB-E300に浸かってるのって全部快速だよね。「リゾートしらかみ」もそうだし。」
「まぁ、そうだけどね。でも、あれでも十分特急料金とってもいいぐらいじゃないかな。」
「・・・。」
うーん、本物を見たことがないからコメントは差し控えます的な雰囲気だ。
と思っていると、富山側に一つ明るいヘッドライトが現れた。どうやらあれのようだ。
ヘッドライトは上に一つだけ付いている。車体は主に赤が目立つ。
「・・・。」
近づいてくるとその車両が嫌でも何なのか分かった。それが分かった時点で、何とも植えない雰囲気が僕と萌の間に漂う。どこかの動画では「J西:私を甘く見ないほうがいい」などと赤文字のテロップが流れているところだろう。本当に甘く見ないほうがよかったのかもしれない。
車体には花の模様が入り、いかにもめでたそうなとそうだ。というよりも列車名である「花嫁のれん」は嫁入り道具の一つであるらしい。つまりは縁談に関連するものである。となれば、塗装がめでたさを彷彿とさせるものになるのは当然だ。
ただ、改造しても種車が分かるのは何という皮肉ともいえるのだろうか。先頭には貫通路がなくなり、かなり違和感を覚えてしまう。
「キハ48だよね、これ。」
「うん・・・。どう考えてもキハ48だね。」
「使えるお金は全部新幹線に行っちゃったかなぁ・・・。」
「新車を入れるだけのお金は残ってなかったのかもね。」
「J西版「はやとの風」。」
「「はやとの風」よりは内装豪華だねぇ。」
よくここまで改造したものだ。
さて、「花嫁のれん」のもとの車両が残念なことは置いといて、その豪華さは外から見ただけでも目を見張る。個室の様に別れた部屋の壁は振袖を模しているかのような紋様で埋め尽くされる。シートは専用の物に赤色のモケット、車内はめでたさを前面に押し出し、金を多用する。ただ、これを車内で堪能するためには指定券のとれた人限定だ。
携帯のカメラを向けて、何枚か取るとどっちも落ち着いた。
「結構撮ったね。」
「こういうのはここに来ないと見れないでしょ。ナガシィはあんまり撮らなかったの。」
「あぁ、なんか幻滅したとでもいうかなぁ・・・。」
「・・・。」
「行こ、「サンダーバード」まで時間あんまりないよ。」
そう言うと僕たちは4番線から去った。「サンダーバード26号」の止まるホームにはすでにたくさんの人がいる。自由席だけど座れるかなぁ・・・。
何とか席に座ることが出来た。そのまま帰るわけだが、今日が終ればまたいつもと変わらない仕事の日々が待っているのだ。




