341列車 最北端
マリーンアイランド岡島を通り過ぎ、次のさるふつ公園まで走った。そこまでの間ずっと70キロで走り続けた。文字通りノンストップだった。途中、浜頓別の町で信号があったが、その信号を青で通過したためでもある。もし、それに引っかかっていれば、1時間のうち数十秒の停車があったのだが・・・。
まぁ、そんなことはどうでもいい。」
「はぁ・・・。」
僕は天井を見て、腰を押さえた。さすがに紋別からずっとハンドルを握っていると腰とかに方が来るものである。普段からこれぐらい長く走っているが、仕事では結構乗ったり下りたりを繰り返しているため、総合的な運転時間が短いのだろう。
「さすがに交代しよ。」
萌がそう言った。僕はそれに頷き。
「じゃあ、ここから先はお願い。」
と頼んだ。
さるふつ公園の到着は12時ぐらいだった。時間通りの到着と言えるのかどうかはまだわからないが、結構飛ばして来ただろう。カーナビの画面右上端に表示されているほぼ路の到着予定時刻は紋別出発時から実に1時間以上も稼いでいる。だが、ロスタイムとかを含めれば、稼いだ時間はあんまり当てにならない。
「お昼でも買って食べよう。ここのホタテ飯は美味しいらしいよ。」
そういい、今治は車を降りた。
外はさっきまで雨が降っていたが、今はやんでいる。
さてさて、お昼にしたホタテ飯だが、見たまんま名前のまんまの物だった。ホタテの貝殻に挟まれるようにビニールに包まれたご飯とホタテが入っていた。ビニールを貝殻の上で開いて、からはお皿にする感覚で食べた。
食べ終わったら、今度は萌の運転で宗谷岬を目指す。車の量はさっきまでよりもまばらになり、同じ方向へ向かう車も反対側からやってくる車も少ない。前に大型車でもいない限りずっと70キロで走れる状況が続くかと思ったらそうでもない。民家が近くにあるところでは制限がいつものごとく掛かる。
オホーツク海からいったん離れ、坂を上って、そのあと駆け降りる。峠を抜けてしばらく走ると民家がだんだんを増え始め、速度制限がかかる。そうこうしているうちに宗谷岬に着いた。
「よしっ、外出よう。」
これで外に出た瞬間それまでの車内の空気とは全然違う空気が肌を抜けていく。
「サムッ・・・。」
本当に薄着できたことを後悔するような寒さである。僕らと時同じくしてバスツアーの人たちも到着した。大型バス2台。ざっと80人ぐらいの団体だろう。参加者は見るからに老後を謳歌している人たちに見える。
「今治、どうするの。」
「モニュメントの前で記念写真撮ろうか。」
てことはあの団体客が全部はけるまで待ってるってことね。
それを待って撮った写真は、某海賊アニメのとある出港シーンみたいに片手を空に突き上げるポーズのものになった。ただ、今治だけフライングしたため、ポーズが狂っているものになってしまった。
あー、寒かった。
日本最北端の地をすぐにあとにすると稚内市内を目指す。次の目的地は稚内駅に併設されている道の駅わっかないである。
稚内の市内を通り過ぎ、稚内駅までやってくる。その直前にキハ54の単行が名寄方面に向かって発車していった。
近くの駐車場に車を止めて、駅を見に行った。時間は14時20分になっている。
駅舎の中に入ってみると外の寒い空気からは解放された。ガラスが多用された新しい稚内の駅舎からは棒線化されたホームを見ることが出来る。そして、それを見せまいとするかのごとく「最北端の線路」、「昭和35.3.22開駅 指宿枕崎線西大山駅 最南端から北へつながる線路はここが終点です。 宗谷本線稚内駅 昭和3.12.28開駅」の看板が立っている。ここが旭川から続いている宗谷本線の終点でもある。
「列車いないね。」
萌がホームの方を覗き込んでいった。
「そりゃ、さっきキハ54が発車してったしね。しばらくは来ないでしょ。」
そう言いながら、ちらっと時刻表を見た。ほとんど数字が埋まっていないし、埋まっているところも一つぐらいしかない。1日にこの稚内から発車する列車は特急3本を含めて8本。6時04分の普通名寄行きから始まり、最終は19時24分発の普通幌延行きだ。旭川方面から来る列車も特急3本含め8本。8時01分到着の普通に始まり、最終は22時56分着の特急「スーパー宗谷3号」で終わる。
言っちゃいけないのかもしれないが、見かけ倒しって言葉がこれほど似合うのもないかもしれない。
「次に来るのは16時49分の「スーパー宗谷」かぁ・・・。さすがにこれは待てないね。」
「そうだねぇ。」
そういい、今度は上の方に目をやった。するとテレビが目に入った。画面には次の列車が表示されている。
次に発車するのは前述の16時49分発の特急「スーパー宗谷4号」札幌行き。そしてその次の列車は17時08分発の普通名寄行き。今時間は14時30分にもならないから、あと2時間以上稚内からは列車が発車しない。東京とか大阪とかで暮らしていれば、2時間も列車が来ないなんて信じられないだろう。だが、
「あっ・・・。」
あることに気付いたのだ。
「どうした。二人そろってなんか発見したのか。」
百済がそう言いながら近づいてきた。さっきまで駅舎とかの写真を撮っていた高槻もきた。
「いや、さすが北海道だなぁって思っただけ。」
そういい、僕と萌はテレビ画面を指差した。
「あ。」
二人とも何が北海道らしいのかわからないようだ。だが、高槻はテレビ画面を見てすぐに察したようだ。
「ああ、確かに北海道らしいと言えばらしいな。あれ間違えたら、大事だからな。」
「えっ、何かあった。あれに。」
「いや、全然。北海道からしてみれば普通の日常的なものがあっただけだよ。見てみ、あれ。」
テレビ画面には特急列車の方は緑色の文字が、普通列車には黄色の文字が流れている。特急の方は「南稚内、豊富、幌延、」と表示され、普通は「糠南、筬島、天塩川温泉、紋穂内、初野、」と表示される。それらの表示がすべて終わったのか、また最初から駅名が流れ始めた。だが、本当に見てほしいのは駅名の前だ。
「えっ。」
百済も気が付いたようだ。
さて、普通列車と言えばどういう列車だろう。なんて聞く必要もないな、各駅に止まる列車。基本その通りだ。
察しの良い方ならもうお分かりだろう。普通列車の下に流れる黄色文字の駅名は通過する駅の事である。17時08分発の普通列車を例に挙げると、前述の駅のほかに南美深、智北、北星駅を通過する。通過する駅はそれだけ需要がないということの表れでもあろう。
だが、これだけじゃあない。普通は各駅に止まる列車だが、止まる対象が駅では無かったらどうだろう。
17時08分の普通の通過駅で新設時駅では無かったものは糠南、天塩川温泉(旧:南咲来)、初野、南美深、智北。これらはもともと仮乗降場として開業している。「駅ではないから通過しても文句なくね。」ということだ。
ひどい話かもしれないが、そういう所もある。どんな駅かはどうぞネットで画像検索でもかけてみたらどうだろう。9割方「これが駅か」という感想になると思う。
「と、今治はどこ。」
「土産物屋に行ってるけど。」
百済が言う。
「あっ、じゃあ僕たちもそっち行こうか。」
ホームの見える窓からだんだんと僕たちは離れ始めた。次に来るときは列車でこの地に来たいものである。




