336列車 高槻の家
5月。
今月は今治からまた北海道に行こうと持ちかけられた。もちろん、それには行くのだが、今回はどうも出発が早いらしい。関空から始発のLCCで行くらしく滋賀からはどうあっても間に合わないようだ。
「今治からそう言われたんだけどさぁ。いいのかな。」
僕はそう電話口の高槻に聞いた。
「ああ、そのこと。俺も今治から言われた時は「おいおい」って思ったけどな。でも、お互い北海道には行くんだし、それぐらいいいかなと思ってね。親にも言っていいよって言われているし。」
「・・・。」
少しの間沈黙する。
「でも、いいの。僕と萌だよ。1人ならともかく2人だよ。ほんとにいいの。」
「いいよ。家はその前後はうるさい姉貴ぐらいしかいない予定だし。」
「えっ。」
「仕事の関係ともう既にいないのどっちかだよ。って、そんなこと言わせんな。」
「ああ、ごめん。」
「てか、お前大丈夫か。特に姉貴のこと。」
「別に、苦手じゃないし。」
(苦手じゃない・・・か。)
「苦手じゃないなら、大丈夫か。恐らく姉貴家に来るのがお前だなんて知らないからな。もしかしたら、飛びついてくるかもしれないぞ。歳関係なしに。」
(それは大丈夫じゃないけどね・・・。)
高槻とのそんなやり取りを思い出しながら、千里中央の駅に降り立った。北大阪急行の現在の終点は特に変わりがないと辺りを見回す。ただ、下に止まっている列車には多少の変化がある。シルバーの車体が目立つのは北大阪急行「ポールスター」の2代目9000系の「ポールスター2」。そして、その反対側に止まっている大阪市営の20系はリニューアル更新工事の施された21系5F。全両ラッピングが施され、更新を示す外観は車端部についている赤色シマシマ模様の号車表示である。
「そう言えば、高槻君の家ってここから近いのかな。」
萌がそれを口にした。そう言えば、専門学校の時高槻の家がこっちの方にあることは知っていたが、実際に行ったことは無い。どこにあるのかも、どれぐらいの距離があるのかもわからない。
「ああ、どうなのかな。多分歩いて行ける距離だと思うけど。」
「永島、萌ちゃん。」
ふと僕たちを呼ぶ声が聞こえた。
「高槻。」
「海斗君。」
「よーす、久しぶり。相変わらず同一行動だな、お前らは。もう結婚してもいいだろ。」
「結婚の話は置いといて、高槻の家まで案内してもらえるかな。それにこっから近いの。」
「・・・近いよ。10分ぐらいだな。行こうぜ。」
そういい、高槻は僕たちの前を歩きはじめる。
「そう言えば、今乗ってきたのは。」
と高槻が聞いてきた。
「21系の5Fだったよ。」
「ああ、7Fに次いで更新された奴か。いいもん乗ってきたな。俺なんか仕事場が専門学校の時よりも近くなっちゃったからな・・・。御堂筋に乗ることすらなくなっちゃったよ。」
「電車に乗ることがなくなったのは私達も同じよね。ちょっと前は御堂筋とか阪急からJR乗り継いだりとかして○○とか○○へ行ってたけど。」
「・・・そう・・・。」
しばらく歩いて、マンションの中へと入る。鍵を差し込んで捻ると開く自動ドアを抜け、エレベーターに乗り5階まで登る。そして、扉の前までやってきた。
「ここが俺の家。いるのは永島はよく知ってる姉貴だけだし、ゆっくりしていきなよ。後、間違っても俺の家の中でピーとかピーとかす。」
「しないから。」
「しないわよ。」
「一番心配なんだよ。」
「その心配いらないよ。」
「そうよ。私ナガシィ以外の人がいるところでやらないから。」
「萌ちゃん、いろいろとその発言マズイから。・・・てか本音は事故があると優奈に私以外の女連れ込んだんじゃないかって疑われるからだよ。」
「じゃあ、私マズイじゃない。」
「いや、萌ちゃんを家の中に入れるだけならセーフ。そもそも優奈も何かと納得するし。ただ、萌ちゃんをやったらアウト。だから、問題はない。」
「やったら痛くないように千年殺しだからね。」
(・・・それはどうやってもいたいと思うぞ・・・。てか懐っ。)
さぁ、そろそろ部屋の中に入ろうか。部屋の中に入ると確かに女性の靴が一足ある。
「姉貴、ただいま。連れてきたよ、言ってた人たち。」
「ああ、お帰り海斗・・・ってナガシィ君っ。」
相当ビックリしたらしい。久しぶりに会った善知鳥先輩の目は点になっている。しかし、風貌は高校生の時からかなり変わっている。大人の女性への変化であろう。印象の与える力っていうのは大きいなぁ・・・。でも、見た目の印象は変わっても、中身はそんなに変わっていないようである。
「ナガシィ君久しぶり、鉄研以来だな・・・。それにこんな彼女まで作っちゃって。このこの羨ましいぞ。」
「お久しぶりです。そして、この人は僕の彼女じゃなくて幼馴染です。」
「えっ、そうなの。にしても似てるわね。女版ナガシィ君。あっ、ごめん彼女版ナガシィ君の間違い。」
「どっちも違います。」
「まぁ、ナガシィ君にその彼女さん今日はゆっくりしていきなよ。別に二人なら、家の中でピーとかピーとか。」
「しません。」
「しませんから。」
「俺が半殺しにされるからやめてくれ。」
「優奈ちゃんに半殺しにされる心配しなくていいから。」
10分後・・・、
「でも、善知鳥先輩って家向こうでしょ、何でこっちに。」
「あっ、ああ、いろいろあるんだよ。まぁでも、母方の実家は大阪にあるからな。でも、じいさんばあさんは死んじまってるし、両親の家も売り払って今はその跡地に何か建ったはずだ。詳しいところはよく知らないけど、こっちにすねかじって住むんなら、母親同士でつながってるうちの母さんがちょうどよかったんじゃないの。」
「そうなのか。にしても、言い方・・・。」
「まっ、姉貴の話はこんくらいにしとこ。正直俺もよく知らない。知らないことの話をしても、変な誤解とか生みかねないからな。」
「・・・。」
「それよりも、お風呂とか入っていいんだぜ。」
「えっ、いいの。」
「いいよ。別に道具とかタオルぐらいなら貸すし。」
「覗いたりしないよねぇ。」
萌は疑う目つきで高槻を見る。
「いや、何でこっち見るんだよ。もっと隣にいる奴が覗いたりしないかどうかを疑えよ。」
高槻はそう言いながら、僕のことを指差す。
「人の事指差しちゃダメでしょ。」
「はい。」
「でも、ナガシィはそう言うことしないよ。」
「おいおい、何処から湧いてくるんだ、それは。」
「・・・だって、僕覗いたらどうなるかなんとなくわかるもん。」
「そうそう。そう言うこと。じゃあ、お言葉に甘えてお風呂借りるね。後、タオルも借りちゃうから。ごめんね。」
萌はそう言い立ちあがると部屋の外へと出て行った。
「自分の家みたいに振舞うなぁ・・・。」
高槻はその後ろ姿を見送りながら、そう呟く。
「十分他人の家であることはわきまえてるから大丈夫。」
僕はそう言った。
「ところで、何で覗いたらどうなるか分かるんだよ。覗いたことでもあるのか。」
「無いよ。」
「無いのっ。萌ちゃんの胸が腕とか背中にぴったり押し付けられることがあっても。」
「どういう基準だよ。」
「・・・まぁ、基準はおかしいかな。でも、そうなるぐらいに彼女が心を許してるとさ、それかそれ以上に発展してもおかしくないんじゃない。もしかしたら、本人もそれ以上に発展んすることを望んでたりして。」
「変な話するな。」
「・・・。」




