319列車 近い海外
バウンドするように陸地についた。飛行機の主翼は減速の為に表面積を大きくして、空気抵抗を増させて、減速を後押しする。窓から外を見るとターミナルにジェット機が止まっている。ANA、JAL、エアドゥ。飛行機の方はよく分からないが、ボーイング777型機などの大型機も見ることが出来る。
やがて、機体はスピードを緩め、ターミナルにつけた。それを見計らって乗客はシートベルトを外し始める。前の扉が開いたようで、そちらの動きが大きくなり始めた。
前の搭乗口が開いたのだ。と言っても、条約が多いのですぐに降りられるわけではない。
「ちょっと待とうか。」
今治がそう言った。まぁ、今降りなくてもいいだろう。空いてからゆっくりと降りればよい。どうせ急いでいないのである。
荷物を上の荷物棚からおろして、乗客が殆ど降りたころを見計らって、前のタラップと繋がった搭乗口に向かった。
搭乗口に近づくとひんやりとした空気が肌に触れた。もうここから空気が違う。北海道ならではの空気である。
つながっているタラップの中でも芯から冷える空気が立ち込めている。これを感じて思うことは「北海道って、とても同じ日本とは思えない」である。
中学生の時に「北斗星」に乗って来た時。高校の時に来た研修旅行。どちらも夏に来ているが、夜になったら羽織るものか長袖が1枚あったらちょうどいいという静岡や大阪での夏では考えられないことだった。しかし、これが北海道の気候なのである。
さて、この気候が同じ日本の中にあるのだ。昔、青函連絡船で連絡していたころはこれに乗った人々が「パスポートのいらない外国に行くようだ」と言った理由が何となくだが、分かる。
「さむい・・・。」
相当着こんでいるはずであるが、北海道の寒さはそれさえ気休めであるかのように襲ってくる。僕がそう言ったからか、
「寒い・・・。」
「寒っ。」
「凍る・・・。」
萌、高槻、百済が続ける。
「早いところ建物の中入っちゃおう。」
足早にタラップを抜けて、建物の中に入った。建物の中にはいれば少しはましになった。外にはこの寒さよりも遥かに寒いところを1時間以上飛行し続けてきたエアバスの飛行機がある。この機体はこれからまた関空に戻ってそこで休むのだろうか・・・。まぁ、それはどうでもいいか。
これから登場するであろう人々を横目に通路を歩いていく。階段を下りると預けた荷物を受け取る場所がある。息は誰も荷物を預けていないので、そこをスルーしたいところ。だが、流石にトイレに行きたい。通路を通り抜けきったところにあるトイレに行くため、他人の邪魔にならない所に荷物を置いて、入れ替わり立ち代わりで用を足す。
「さぁ、着いたよ。」
今治が言った。
「着いたね。」
「着いちゃったよ。」
「それで、これからどうするのさ。」
僕は今治に聞いた。此処から札幌に行かなければならないのだ。泊まるところは札幌にあるのである。
「新千歳の駅に行って、そこから快速「エアポート」に乗って札幌行く。泊まるホテルは札幌駅から近いから。」
「今日はそれで終わりかな。」
萌が釘をさすように聞く。
「おいおい、それで終わりはないだろ。それで終ったら、俺がカメラ持ってきた意味ねぇよ。」
高槻が言う。
「えっ、高槻君のそれは坂口さんのピーを取る為に持ってきたんだろ。」
百済が言った。あれ、百済ってこういうキャラだったっけ。
「マジ。ちょっと高槻君それはどういうことかな。」
「取るわけねぇだろそんなの。こんなところにまで来てエロ写真しか採るものがねぇとか寂しすぎるからやめてくれよ。」
「まぁ、そんな写真撮ったらただじゃおかないけどね。」
「・・・別に心配しなくてもいいよ。そんなのとって帰ったら俺が優奈にぶっ飛ばされるから。」
「あっ、そう言えば彼女いたね。」
「・・・。」
「とまぁ、エロ写真の話は置いといて・・・。」
話を元に戻そうか。高槻がカメラを持ってきた理由はもちろんそれ以外のことだから問題はない。ここでしか撮れないものを撮るために持ってきたのだ。
「まずは「エアポート」札幌まで行こう。ホテルついてからでもこういう話は出来るし。」
荷物を今治がもった。それを皮切りに僕たちも自分の荷物を肩にかけて、空港の下にある新千歳空港駅に向かって歩きはじめた。
駅の近くにやってくると外の空気と繋がっているためかひんやりとしてきた。券売機があったものの、それはスルーした。此処でもIC乗車券を持っていれば、使えるのだ。ICOCAを持っているから、それで改札機のICのところにかざして入った。
エスカレーターでホームに降り立つとタラップの中で感じたような芯から冷える空気が立ち込めている。新千歳空港の近辺は地上に線路を敷くだけの用地を確保できないため、トンネルになっている。だが、それは隣の南千歳までの間に抜けてしまう。そして、飛行場が地上にあるという事は駅があるのは自動的に地下にある。空気も水と同じように温度の低いものが下に来る。此処には地上よりも少なからず冷えた空気が漂っているのだ。
「おっ。733系。」
高槻が声を上げた。
それにつられて僕もそっちを見て見る。確かにそこには新型のステンレス車両が止まっている。北海道の新型車両はコスト削減の面からか731系以降同じ顔、同じような設計を採用している。もはや見た目だけでは見分けがつかないぐらいの小さい違いしかない。と言っても、快速「エアポート」に投入される733系は6両固定編成にしてあるうえに4号車が「uシート」車両となっている。
「どうする。こっちの「エアポート」の方が先に発車するけど。」
今治が聞いてきた。
「いいんじゃない。次の「エアポート」で。急いでないことには変わらないんだからさぁ。」
というわけで次の「エアポート」に乗って確実に座っていくことを選択することにした。733系の「エアポート」が発車する直前に721系の「エアポート」が入線する。その入線を待って733系が発車した。
721系の「エアポート」の発車時間になり、新千歳から離れる。外に出ると外はすでに暗闇に変わっている。昔の鉄道の汽笛と同じ汽笛を鳴らして、暗闇の中を走り出した。デッキのある通勤電車は札幌の近づくにつれて乗客の数が増していった。
さて、此処でも北海道の寒さを物語るものがあった。それは721系の窓が曇っているということだ。暖房の効いた車内と外気の外がどれほどの気温差があるかを物語っていた。




