291列車 出会い
「ん・・・。」
「ねぇ、二ノ橋さん。ちょっとは躊躇いっていうのはないの。こっちが恥ずかしいんだけど・・・。」
「なんでよ・・・。」
「えっ・・・。」
「なんで・・・。なんでそんなに似てるのさ・・・。なんでなのよ。」
目が覚めた。夢だったのか・・・。ハァ・・・。最近そういう夢ばっかり見る。過去に本当にあったことなのだけど・・・。
研修旅行を終えてから、日綜警から届くであろうものを待ちながら、こっちで暮らしている。まぁ、先の配属先とかそういうことが決まるものが入っているからだ。だから、それまではこっちにいなければならない。ただ、いつも部屋にいるのは暇なので、今日は泉北高速にでも乗りに行こうと萌が誘ったのだ。
「乗るのはいいけど、なんで。」
「だって、今までそっちに行くことはあったけど、一度も乗って無かったじゃん。だから、乗りたいなぁって思っただけだよ。」
萌はそう言って、僕を促した。
泉北高速は今、民間に売却することで揺れている鉄道会社だ。いったんは外国の投資ファンドに売却することが決まったが、大阪の議会で否決されて、どうなるかがまだ決まっていない。僕個人の意見を言うのであれば、泉北高速を南海に売却して、南海自身の鉄道にしてしまうのが一番手っ取り早いと思う。そうすれば、運賃が安くなって、利用者としてもいいのではないかと思う。その泉北高速鉄道は南海電鉄の中百舌鳥駅から、ベッドタウンの和泉中央まで延びる鉄道路線である。南海高野線との相互直通運転を行ってる。
「まぁ、いいけど、何で和泉中央に行く時間が決まってるのさ。」
「えっ。なんでって。それは秘密だよ。」
「なんか、怪しいなぁ・・・。何をたくらんでるの。」
「何も企んでなんかいないって。」
萌はそれ以上何も言おうとしない。まぁ、何も企んでいないっていうときに限って何か企んでいるから、それ以上は何も詮索しないようにしよう。何をたくらんでいるのかは恐らく和泉中央に行けばわかることだ。
地下鉄の1日乗り放題券を買って、御堂筋線を江坂からなかもずまで乗る。中百舌鳥で南海電鉄に乗り換え、和泉中央まで行く列車に乗る。泉北高速を通る列車は日中全て準急だが、南海線内のみ通過駅が存在し、泉北高速内では各駅停車である。和泉中央には11時過ぎに到着した。
和泉中央の改札を出ると、
「萌ちゃん。ナガシィ君。」
こっちで僕の名前知っている人って・・・。クラスの人・・・。いや、クラスの人でこっちに住んでいる人っていなかったような・・・。じゃあ、誰。
「ナガシィ。久しぶりでしょ。」
「久しぶりって。ごめん萌、誰。分かんないんだけど。」
「分かんないかぁ・・・。小学校の卒業式以来あってないもんね。でも、あたしにはナガシィ君がそのままだってわかるよ。」
「ねぇ、萌いい加減教えてくれてもいいじゃん。」
「ウフフ。美萌ちゃんだよ。」
「えっ・・・。」
待っていた人を見てみた。僕の知っている二ノ橋さんじゃあない。それは分かる。まぁ、成長期に成長してるからなぁ・・・。僕の印象は二ノ橋さんが言うには変わっていないらしい。僕ってそんなに変わっていないのかなぁ・・・。
「ようやっとわかったかぁ。まぁ、小学校の時は胸なんてなかったし、髪も長くなかったしね。これでも信じてくれないっていうんなら、あれ話しちゃおうっか。小4の時に・・・。」
「分かったから、それはやめてよね。」
「なんで。萌ちゃんだってこのこと知ってるよ。」
「ウソッ・・・。」
「変わってないなぁ・・・。話すわけないじゃん。広めたのは綾ちゃんだからね。あたしじゃないよ。」
「・・・。でも、萌は知ってるんだね・・・。」
「アハハ。ところでここからどっかに行くの。」
萌がそう二ノ橋さんに聞く。
「行くけど、もう一人来るんだ。だからちょっとだけ待っててね。」
「もう一人。」
「萌ちゃんには成人式の時にあったから話したんだけど、私が話したいっていう人のことだよ。」
僕たちはキョトンとした。
しばらく待っているとその人が現れた。初見は女の子っぽい人だ。
「美萌ちゃん。ごめん、遅れちゃった。待った。」
声までカワイイ。これはネットの中ならば、男の娘っていうジャンルになるのだろうか。
「待ったよ。あたしが一番ね。桃李。」
「ところで、話してるこの人たちは誰なの。美萌ちゃんの友達。」
「うん。小学校のね。」
「小学校・・・。すごいね。美萌ちゃんの同級生と大阪で会えるなんて。」
その人は息を整えている。ここまで走ってきたようだ。
「紹介するね。この人は沙留桃李君。彼氏だよ。」
「ちょっ・・・。ちょっと待ってよ。彼氏だなんて。それも僕は初対面だよ。いきなりそんな・・・。」
「いいじゃん。それとも付き合ってないの。あたしたち。」
「確かに付き合ってるけど・・・。でも、恥ずかしいなぁ・・・。」
そういうことで決着したようだ。そのあと二ノ橋さんがその人に僕たちのことを紹介した。まぁ、紹介の仕方は何ともいわない。
紹介が終わった後は、近くにあるショッピングモールみたいなところで、お昼とかを食べてから、行動することとなった。一番最初に言ったのはそこの本屋さんだった。本屋さんで時間をつぶすのもどうかと思うけど・・・。
「うーん。どうしようかなぁ・・・。」
「桃李どうしたのさ。買いたいの。」
「まぁね。でも、あんまりお金が無くてさぁ・・・。」
「バイトしてるんだから、もう少しでお給料が入るんじゃないの。」
「まぁ、それは入るよ。そのうちね。まぁ、今月いっぱいでそのバイトも終わりだけどね。」
そう言ってから沙留はあたりを見回した。
「ところで、永島君だっけ。鉄道好きって聞いたけど、こういうコーナーに来ないねぇ。」
「うん・・・。萌ちゃん。」
二ノ橋は近くの萌に話しかける。
「ナガシィ君どうかしたの。」
「まぁ、ちょっとね。就職が決まったには決まったんだけど、なかなかそれに納得してなくてさぁ・・・。ちょっと前には鉄道好きなんてもういらないっていってて、それで必死に切り離そうとしているのかなぁ・・・。」
「えっ・・・。ちょっと、それどういう意味。ナガシィ君から電車取ったら何が残るのさ。」
「まぁ、そうなんだけどねぇ・・・。」
「じゃあ、何。鉄道の話をしても彼にとっては迷惑なのかなぁ。」
「迷惑ってことでもないみたいだよ。やっぱり好きみたいだからね。」
「変なやつだなぁ・・・。もう好きじゃないなら迷惑がってもいいのに・・・。でも、やっぱり好きっていうの、分かる気がするなぁ・・・。やっぱり好きなものって簡単には嫌いにはなれないから・・・。」
「・・・こんなこと聞くのもあれだけど、ナガシィ君ってどこに就職決まったわけ。鉄道会社じゃないの。」
「私と同じ警備会社。」
「・・・考えられない。全然イメージあわない。ナガシィ君が警備で働くって想像できない。天地ひっくり返っても無理。」
「・・・まぁ、そう言ってやるなって。僕だって警備会社だよ。もしかしたら、君たちと同じ会社だったりしてね。」
沙留君はそう言って笑った。
「ちょっと探してくるね。今どこのあたりにいるかなぁ・・・。」
「小説コーナーにいるんじゃない。トラベルミステリーとか探してるかもよ。」
二ノ橋さんはそう言って、沙留君はそれに返事をする。そして、探しに行った。
「それにしても、やっぱりイメージあわないなぁ・・・。昔っから電車のことばっかだったじゃん。だから、すごく意外だなぁ・・・。」
「美萌ちゃんが意外って思うもの無理ないと思うなぁ・・・。ナガシィだって、まだ認めてないみたいだし。」
「あっ。そういうところは安心するわ。でも、いつまでもそれは言っていられないよねぇ・・・。」
「だから、言わないんだって。言わないから余計に分からないんだよ。周りの人にはそういうことを何も言わないで、一人で考え込んじゃうから。」
「そこは萌ちゃんがいるから大丈夫でしょ。・・・何も変わってないって思ったけど、なんか変わってるんだね。」
僕はその頃架空戦記の小説を探していた。
「やっぱりないかぁ・・・。」
「ここにいたのか。」
そう言ってきたのは沙留君だ。
「あっ。沙留君。」
「意外な本読むんだね。美萌ちゃんはトラベルミステリーとかのコーナーにいるっていってたけど。」
「トラベルミステリーねぇ。読まないわけじゃあないけどね。そういうのは読みやすかっただけだけどね。」
「・・・トラベルミステリーって、書いた時期が分かるよねぇ。自分が見たこともない急行の名前とかが出てくることがあるし。でもさぁ、想像してみるのも楽しいよねぇ。」
「まぁね。たくさん想像できるから面白いんだよ。でも、今はこっちのほうがいいなぁ・・・。戦艦が戦うのはやっぱりいい。」
「・・・永島君。小説の中に最長片道切符の旅っていうのがあるんだけど知ってる。」
「知らないけど。」
「読んでみたら。国鉄の時の話しだから、もうなくなってる線路とか車両とかいろいろ出てきて面白いよ。君ならかなり楽しめるんじゃないかなぁ。」
「・・・まぁ、そのうちね。」
沙留との間に会話がなくなる。
(話しづらいなぁ・・・。)
「ところでさぁ・・・、沙留はどんな本読むの。」
「えっ・・・。まぁ、最長片道切符のたびとかトラベルミステリーとか。そういうのだよ。でも、なかなか読み進められないんだ。小説ってあんまり早く読めないから。」
「別に早く読むことは考えなくてもいいよ。僕だって、小説は早く読めるわけじゃないし。そうだなぁ、僕は小説読んでる時にその描写を想像しながら読むけど。まぁ、戦争の話になると死体がごろごろ転がっているのを想像することもあるけどね。」
「やめようかその想像。」
「・・・。」
この後しばらくの間本屋にいた。少しだけここであそんで、僕たちは分かれ、途中難波によってから、家に帰った。
「ごめんね。今日いきなり呼び出したりして。」
「いいよ。気にしないで。でも、永島君ってなんか話しづらいのか話しやすいのかわからない人だったなぁ・・・。」
「そう。」
「うん。自分からあんまり話したがらないのに、自分が話す時はすごく親しみやすい笑顔になるんだよなぁ・・・。なんでかなぁって思うことがあるんだ。人と話したがらないのは単なる人見知りなのかもしれないけど、ギャップがね。」
「・・・ナガシィ君、昔にもいろいろあったから。人と話したがらないのはそのせいだけど、あたしもよく知らないんだ。」
「・・・。」
「どっちなんだろう。あたしも昔好きだったけど、分かんないや。」
今回からの登場人物
沙留桃李 誕生日 1994年3月27日 血液型 A型 身長 166cm




